研究概要 |
うつ病性障害と不安障害は, 精神障害の中で最も有病率の高い障害であり, 医学的障害の中で日常生活への支障度が最も高いこと, とりわけ自殺率を高めることが指摘されている。自殺の要因として, 衝動的行動特性が関与している可能性が挙げられる(Turecki, 2005)。また, 自殺に限らず, 暴力や他者への攻撃, 賭博, 衝動買いといった「内的あるいは外的な刺激に対して拙速で無計画な反応を, 自他への影響を考慮せずに行う行動(衝動的行動)」は, うつ病性障害・不安障害患者に多く見られることが報告されている(Kirsten et al, 2011)。しかし, これまでうつ病性障害・不安障害患者を母集団として衝動的行動に焦点をあてた研究は少なく, 介入方法の検討も行われていない。 そこで本年度は, まず, 衝動的行動を特徴とする双極性障害と不安障害について先行研究を詳細にレビューし, 研究計画を精緻にすると共に, 書籍へ発表した。 次に, 日常生活場面におけるうつ病性障害・不安障害の衝動的な回避行動を測定するため, 経験サンプリング法による調査の準備を行い, 調査を開始した。経験サンプリング法では, 1週間, 1日に6回調査を行う。これにより, 回顧バイアスを防ぎ, 個人内の変動を測定することができる。現在までに健常者8名を対象とした調査が終了しており, これまでの測定データから学会誌への投稿準備をしている。 また, 衝動的な行動をとる要因について検討するための実験課題について, 課題作成を行っている。 さらに, うつ病性障害・不安障害に衝動的行動が見られる患者を対象とした事例を継続的に実施し, うつ病患者を対象とした認知行動療法, 不安障害患者を対象とした認知行動療法, 不安症状と気分症状を併発する患者を対象とした認知行動療法の結果を国内学会にて発表し, うつ病性障害・不安障害に見られる衝動的行動への介入に必要なコンポーネントの準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1点目は, 研究課題である衝動的行動を特徴とする双極性障害と不安障害について先行研究を詳細にレビューし, 研究計画の内容について再検討し, 書籍へ発表したことである。2点目は, 日常生活内における衝動的な回避行動を測定する調査を開始したことである。現在調査は順調に遂行されており, 途中経過をまとめて学会誌への投稿準備をしている。3点目は, うつ病性障害・不安障害へ既存の認知行動療法を実施するだけでなく, うつ病性障害・不安障害に見られる衝動的行動へ焦点をあてた介入を継続的に実施し, 必要事項の検討と学会発表を行ったことである。これらの点は, いずれも当初の計画を進めていく上で重要な点であり, 概ね順調に研究を遂行していると判断できると考えた。
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