本年度は前年度に開発したヒトの筋腱構造を忠実に再現した腱駆動ロボットハンドの制御手法の提案,実験に主に取り組んだ. その中での取り組みの一つが,ヒトが身体のもつ特性を制御に有効に利用している典型的な例でもある.関節剛性調整の腱駆動ロボットでの実現である.腱の非対称さや腱の配置の方法によって生じる腱の変位と関節角度との関係の複雑さを解消する機構を提案し,容易で関節ごとに独立な剛性調整を実現した. 可変な関節剛性はロボットハンドが実環境で活動するうえで重要な能力である.このように位置制御とは独立に関節剛性が容易に制御できるようになったことで,これまでに行われてこなかったような剛性調整を含むロボットマニピュレータを用いた実験が可能になった. また,もう一つの取り組みとして,ヒトの指の筋腱構造における筋ごとの関節トルクベクトルと運動との関係を調べることで,開発したロボットフィンガの運動軌道を容易に計画する手法について提案した.提案した軌道制御手法は典型的な軌道を生成するモータの駆動パターンをあらかじめ設定しておき,ヒトの内在筋にあたるモータの駆動量を変化させることで目標の軌道を生成するという手法である.腱を通して複数の関節へと単一のアクチュエータの作用が伝達されることを有効に利用した制御によって,常に多くのアクチュエータに対して運動計画をおこなう必要をなくした. 本年度に得られた結果は,研究課題である「複数の感覚と構造を利用した適応的で巧みな物体操作の自律的な獲得に関する研究」において,ロボットハンドが自身の構造を利用し,適応的な物体操作を獲得するうえで重要な進展である.最終的に前年度までの研究と統合するまでには至らなかったが,ロボットハンドの感覚を用いた自律的なマニピュレーションの学習手法と統合することで,適応的で巧みな物体操作の自律的な獲得を実現するまでの基礎を確立できたと考える.
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