研究課題/領域番号 |
12J03549
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山内 順 北海道大学, 大学院・生命科学院, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ナノキャリア / 遺伝子発現 / 2型糖尿病 / (1)アメリカ、ピッツバーグ |
研究概要 |
本研究は、遺伝子送達ナノキャリアを用いた2型糖尿病時の核内転写因子制御により、新規糖尿病治療システムを構築することを目的としている。我々はこれまでの研究として、マウス肝蔵にて、遺伝子発現活性の上昇及び減少を可能とするキャリア開発の成功を報告している。そこで今年度はまず、核内転写調節因子であるFoxa2の蛋白質リン酸化部位に変異を加えたpDNAベクターの構築を行った。Foxa2は、低インスリン(絶食)状態では細胞核内に局在し、脂質代謝や糖新生に関与する遺伝子の転写プログラムを活性化する。一方で、糖尿病の進行期に認められる高インスリン状態では、Foxa2のリン酸化により、核から細胞質への移行が起こり、転写を不活性化することが知られている。従って今回構築したpDNAの導入により、Foxa2の核から細胞質への移行を阻害し、核内転写プログラムを活性化する結果、糖尿病症状が改善することが期待された。実際に、構築したpDNAをマウス肝細胞及びマウス肝蔵に導入し、遺伝子発現活性及び糖尿病症状の改善評価を行った結果、構築したpDNA自身は十分な遺伝子発現活性及び血糖値改善効果を示した。一方でこのpDNAベクターと我々のナノキャリアと組み合わせた際には、ナノキャリア自身の遺伝子導入効率上昇に対する改良が必要であることが示唆された。しかしながら、ナノキャリアを用いてFoxa2のファミリー蛋白質であるFoxO6に対するsiRNAをマウスに導入し、FoxO6の遺伝子発現抑制を行ったところ、有意な標的遺伝子及び糖尿病関連遺伝子の発現抑制と、それに基づく糖尿病症状の改善が認められた。そこで現在は、Fox転写因子の発現変動の是正により、糖尿病症状を改善した際の、糖尿病モデルマウスの体内及び細胞内動態の変化に関して、米国ピッツバーグ大学にてDr. Dong教授の指導の元で詳細に検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は本年度、膜透過性ペプチド(CPP)を用いた核酸内封型リポソームナノキャリアの中では、世界発のsiRNA送達の成功を報告した(研究発表(13)参照)。また我々のナノキャリアを用いてFoxファミリーのひとつであるFoxO6遺伝子の発現抑制を行った際には、当初の目的である糖尿病症状の改善を達成している。現在は糖尿病症状改善の理由を探るべく、ピッツバーグ大学にて細胞内におけるシグナル経路を詳細に検討している。キャリア開発(薬物送達分野)と、2型糖尿病メカニズム解明(分子生物学分野)の異分野融合研究が一歩前進できたという意味で、本年度は期待通りの進展があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究でこれまで用いてきたCPP含有キャリアは、その高い正電荷ゆえに、生体内での物性上の安定性が低いことが考えられる。そこで、現在は本研究室で新たに開発された、生体内投与時に中性電荷を示すpH応答性脂質を用いたキャリアによる遺伝子・核酸導入を試みている。本キャリアによるsiRNA導入時には、遺伝子発現抑制及び糖尿病症状の改善が認められており、今後はこのキャリアを用いて、長年糖尿病研究を行っているDr. Dong教授の指導の元、細胞内シグナル経路の解明を行っていく予定である。
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