研究課題
本研究は、受動的音響観測システムによって、鯨類の生息域の時間的、空間的利用特性を把握し、個体数密度を推定する、手法の確立を目的とする。生息域の時間的、空間的利用特性から、対象動物が「いつ」「どこで」「何を」しているのかを把握でき、個体数密度から、「どのくらい」いるのかがわかる。これを達成できれば、対象水域を音響的にモニタリングするだけで、定量的な資源管理を簡便に実施でき、効果的な保全に資することができる。当該年度は、沿岸域に生息し、人間活動との軋轢から絶滅の危惧される四種の小型鯨類を対象とし、音響データを収集することを目指した。アジアの沿岸域にのみ分布する四種、スナメリNeophocaena phocaenoides、ヨウスコウスナメリNeophocaena asiaeorientalis asiaeorientalis、シナウスイロイルカSousa chinensis、カワゴンドウOrcaella brevirostrisを対象とし、日本近海(伊勢湾・三河湾)、中国内陸(揚子江)、中国沿岸(三娘湾)、マレーシア(ランカウィ島周辺海域)、タイ(トラート周辺海域)の五つの水域でデータを取得した。伊勢湾・三河湾では、両水域の全体をカバーするよう曳航音響観測調査を実施し、スナメリ鳴音のデータを収集するとともに検出個体数を計数した。夏季と冬季に調査を行った結果、スナメリの分布が大きく変化する可能性が示唆された。外洋および港内でも発見があり、個体群の資源量推定には注意が必要であると考えられた。本結果に関して、日本動物行動学会および日本水産学会において口頭発表をおこなった。中国揚子江では、バイオロギング手法を用いてヨウスコウスナメリの発声頻度変化を調べた。発声頻度は個体差が大きく、総じて昼夜差があまりないことを明らかにした。アメリカ音響学会において口頭発表をおこない、同学会誌に論文を投稿した。論文は受理され、現在印刷中である。中国三娘湾では、音響アレイを用いてシウナウスイロイルカの音源音圧を推定し、アメリカ音響学会誌に論文を投稿した。発声頻度と音源音圧は、個体数密度計算上で必要となる、検出確率パラメータであり、本研究によりより正確な個体数密度推定が可能となると考えられる。マレーシアのランカウィ島周辺海域)およびタイ国トラート周辺海域では、同一海域で複数種の鳴音データを取得した。今後、音響的な種判別手法を確立する。マレーシアのプロジェクトについてThe 1st Design Symposium on Conservation of Ecosystemにおいて口頭発表をおこなった。
1: 当初の計画以上に進展している
五つの海坂の全てにおいて、目標とするデータを取得でき、さらに学会発表、論文投稿までおこなえたことは、当初の予想を大きく上回っている。その理由として、共同研究者が全面的に本研究に協力してくれたこと、特別研究員奨励費を特別枠で獲得でき、さらに外部競争的資金も獲得できたこと、漁業者の協力を仰げたことなどが挙げられる。
三年間の研究機関のうち、初年度である当該年度に多量のデータを取得できた。今後は本データの効率的な解析が重要となる。また、様々な海域で様々な種に関してデータを取得したため、多角的な視点からデータを捉え、まとめることが必要である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件)
Jaurnal of Acoustic Society of America
巻: 133(5) ページ: 3128-3134
10.1121/1.4796129.
Journal of Acoustic Society of America
巻: (未定)(印刷中)
Praceedings of International Symposium on Underwater Technology 2013
ページ: 1-4
10.1109/UT.2013.6519845