研究課題/領域番号 |
12J03583
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福嶋 亮大 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 中国 / 文学 / 大衆文化 |
研究概要 |
本年度はもっぱら近世中国から近代中国への文化的継承という問題を中心にしながら、いかに「情」(欲望)が文学の主題として台頭してきたか、そしてその欲望がジェンダーやセクシュアリティの領域といかに交差し、近代に入っていかなる変異を遂げたかについて、研究を進めてきた。 以上の調査・研究と並行して、中国近代文学と日本近代文学の比較という観点から、夏目漱石の『文学論』における有名な図式'「F」(認識的要素)と「f」(情緒的要素)を取り上げ、それを中国文学における「情」(欲望)の地位の向上と結びつける論考を発表した。漱石の文学をたんに日本の孤立した現象として捉えるのではなく、同時代の中国文学の世界とも隣接する現象として捉えることは、従来必ずしも十分ではなかった。だが、漱石と中国の文学者の考え方の同時代的な相似を見ることも必要ではないか。こうした問題意識から、16~17世紀以降の東アジアの大きな時代的変革のなかに、漱石の文学観を位置づけるということを試みた。 さらに、大衆メディアと欲望という観点から、現代の娯楽産業に見られる表象文化についても分析を施した。具体的には、近世中国の文学で流布した「幽霊」のイメージを、西洋における死者(例えばゾンビ)のイメージと比較しながら、それが現代の娯楽産業とどう繋がっているかを論じる、一種の表象文化論的な論考も発表した。東洋と西洋の死生観の違いという人類学的な問題にも繋がっていくような視座の構築を目指した。総じて言えば、文学における欲望喚起のメカニズムを解き明かすという出発点の下で、近世から近代まで、あるいは文学から娯楽産業まで考察範囲を広げることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、白話文学の原典及び研究書の読み込みと並行して、具体的な研究成果を紙媒体上に発表し続けることができた。特に、研究の遅延などは発生しておらず、当初の予定通り順調に研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
中国の白話文学の読み込みと同時に、その日本との関わりにも調査の範囲を広げていき、近世以来の東アジアの大衆文化のジェンダー、セクシュアリティ、並びに政治性の分析に着手していくことにしたい。一国史観の枠内に収まることなく、現代の大衆文化の拡がりも射程に含みながら、東アジアの文化分析の基盤を整えて行くつもりである。
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