研究課題/領域番号 |
12J03594
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研究機関 | 花園大学 |
研究代表者 |
八尾 史 花園大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 根本説一切有部律 / 雑事 / 薬事 / 破僧事 / ギルギット写本 / 「薬事」新出サンスクリット写本 / 阿含経典 / 律蔵 |
研究概要 |
本研究の目的は、失われた根本説一切有部の〈経蔵〉(阿含経典)の実態を、現存する〈律蔵〉を通じて解明すること、また根本説一切有部の聖典成立過程における〈経蔵〉と〈律蔵〉の関係という問題を解明することである。この目的を実現するため、直接には〈律蔵〉の中の「雑事」という章の内容をあきらかにすることが必要となる。しかしこの章はサンスクリット語写本が現存しないため、サンスクリット語写本の残る他の章と合わせて解明を進める必要がある。これに関して二つの重要な写本資料の調査許可を得られたため、24年度はこれらの資料にもとづき研究を進めることができた。 まず、近年パキスタンにおいて発見された「薬事」サンスクリット語写本断片を調査し、総数100の断片を同定した。この調査を通じて、同写本と従来知られてきたいわゆるギルギット写本、またチベット語訳、漢訳との関係がかなり明確になった。この中の一断片を取り上げ、2012年6月に日本印度学仏教学会第63回学術大会において発表をおこなった。さらに同発表の内容を英語論文として同学会誌に発表した。 また一方、ギルギット写本の「破僧事San ghabhedavastu」について、誤りの多かった従来本にかわる正確なローマ字転写テクストの作成を進めた。 また、今年度は「薬事」のチベット語訳にもとづく日本語訳注を単著として出版した。「薬事」は『根本説一切有部律』と阿含経典の関係という問題を考察する際に最も重要となる部分の一つであり、また「雑事」をはじめとする他の各章に密接な関係をもっている。上記日本語訳注ではそれらの関係を随所において指摘したほか、阿含経典との関係という問題についても解題の中において整理した。 以上のように、24年度の研究においては「薬事」「破僧事」という「雑事」にきわめて重要な関係を有する二つの章に焦点を当てて研究を進めた。これにより、説話と律規定の混合からなる「雑事」の内容が〈律蔵〉全体の中で明確に位置づけられることとなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
あらたなサンスクリット語写本の利用により、チベット語訳、漢訳との関係などに関してきわめて重要な事実をあきらかにしえた。また「薬事」日本語訳の完成により、<律蔵>における経典存在の問題を明確化して提示しえた。上記の研究を優先したため、当初計画した「雑事」の解明は遅れることとなったが、現在アクセスの難しい状況にある貴重な写本資料の調査を進められたことはそれを補ってあまりあり、今後の「雑事」解明にも重要な材料を提供することは確実であるため、研究全体としては順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、24年度に進めた<蔵>中の各章の研究(「薬事」サンスクリット語新出写本に関する、ローマ字転写テクストを中心とする包括的研究および「破僧事」サンスクリット語写本ローマ字転写テクスト作成)をさらに進めるとともに、それらの成果を利用しつつ「雑事」の内容解明、特に「雑事」に含まれる経典の調査と平行資料の整理を進めることとする。
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