研究概要 |
鉄系超伝導体の発現機構・対称性として、スピン揺らぎによりs_+波超伝導が発現するとするものと軌道揺らぎによりs_<++>.波が発現するとする2つの理論が提案されている。これらを見分けるためには、超伝導ギャップ構造の理論的解明が重要である。したがって、我々は超伝導発現機構のBaFe_2(As,P)_2において、超伝導ギャップ方程式の詳細な解析を行った。クーロン斥力のみを考慮して、RPAを行った場合、スピン揺らぎだけが発達して、s_±波超伝導状態となる。この場合には、z^2軌道のホール面のギャップが小さくなり、その付近にノードが現れた。スピン揺らぎは、軌道内ネスティングとクーロン斥力により発達するが、z^2軌道はホール面のみに存在し、電子面には存在しないために、z^2軌道内のネスティングは存在せず、スピン揺らぎが発達しないためである。この結果はレーザー角度分解光電子分光(ARPES)実験の結果を再現しない。鉄系超伝導体では、アンダードープ領域において、正方晶から斜方晶への構造相転移点T_sよび、ストライプ型の反強磁性転移点T_Nをもつ。構造相転移は軌道秩序、磁性転移は磁気秩序に対応し、温度-ドープ量相図において、この付近に超伝導転移があるため、超伝導は軌道揺らぎ、スピン揺らぎの両方が強い領域において、起こっていると考えられる。このため、クーロン斥力にくわえて、バーテックス補正のAL項や、鉄イオンの格子振動に由来する、四重極相互作用を加えた計算を行うと軌道揺らぎも強くなり、その結果(1)z^2軌道のホール面のギャップが開き、(2)s_±波からs_<++>波へのクロスオーバーが起こる。このクロスオーバーの間では電子面にノードが現れる。このノードは実際に、BaFe_2(As,P)_2に対するARPESにより最近観測されている。このクロスオーバーは不純物をドープすることによっても起こる。したがって、BaFe_2(As,P)_2はこのクロスオーバーの領域にあると考えられる。
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