今年度は特に「弦理論の必要十分な非摂動論的自由度は何か?」明らかにしました。これまでの行列模型に関する「常識」を覆すものだと考えています。 これまでに行われてきた行列模型の研究では、「レゾルベント演算子」が非常に重要な役割を果たしてきました。特にレゾルベント演算子のスペクトラル曲線さえ求めてしまえば、弦理論のSchwinger-Dyson方程式である「ループ方程式」を用いることで、任意の摂動的振幅を任意の次数で得ることが出来ます。これは90年代に始まる行列模型の発展において、もっとも重要な帰結であると言われます。このレゾルベント演算子はFZZTブレーンに対応しており、「(摂動的な)弦理論はFZZTブレーンを基本自由度として記述することが出来る」ことを示します。 一方で、この「基本自由度」の帰結は、摂動論を仮定して出されました。まず私は「レゾルベント演算子だけでは非摂動的な振幅を全て与えることが出来ない」ということを定量的に示しました。つまり、「非摂動的な弦理論ではFZZTブレーン以外の自由度が必要である」ということを意味します。実際世界面の記述(Liouville理論)では、FZZTブレーン以外にもCardyブレーンというブレーンが存在します。これまで、Cardyブレーンは摂動的にFZZTブレーンの多体状態として与えられると考えられてきましたが、ストークス現象に着目するとそれは摂動論の範囲内でのみ成り立ち、「非摂動論的にはCardyブレーンは非従属(つまり独立)変数である」ということに気づくことが出来ます。そもそもCardyブレーンを行列模型の中でどの様に記述するか自体、この10年間の未解決問題でした。私はこの研究で記述方法を提案し、その論拠を示し、その上で、「レゾルベントが捉えられない非摂動的情報が、Cardyブレーンを補完出来ること」を示しました。
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