研究課題/領域番号 |
12J03633
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 尚文 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 細胞外マトリクス / 接着斑 / ビンキュリン / ビネキシン / メカノセンシング / 細胞生物学 |
研究概要 |
近年、細胞はマトリックス(ECM)が作り出す細胞外微小環境の堅さを感知して、自身の分化や増殖、運動といった運命を決定していることが明らかになってきた。細胞がECMの堅さを感知する仕組みを明らかにするため、昨年度に引き続き接着斑タンパク質ビンキュリンとビネキシンαに注目した解析を続けている。昨年度までに「硬いECM上でビネキシンαとの結合依存的に、ビンキュリンがアクチン繊維高親和型へと移行している」という可能性が示唆された。今年度はさらに、光裡色後蛍光回復法(FRAP)を行い、硬いECM上でビネキシンαとの結合依存的にビンキュリンの接着斑上における滞留性が増加していることが明らかになった。さらに、異なる堅さの培養基板上で培養した繊維芽細胞を用いて、免疫共沈降実験を行ったところ、堅いECM上でビンキュリンとビネキシンαの結合が促進されることが明らかになった。また、ビンキュリンの構造変化を検出することのできる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)プローブを用いた実験からビネキシンαがビンキュリンに結合するとビンキュリンの構造が変化し、アクチン織維高親和型へと移行していることが示唆された。また、細胞運動を評価できるin vitro創傷治癒アッセイの結果、細胞がECMの堅さに応じて細胞運動の速度を調節するためにビネキシンαが必要であることが明らかとなった。 以上より、ビンキュリン-ビネキシンα相互作用はECMの堅さに応じて細胞が自身の挙動を決定するために必要であることが明らかになった。これらの結果をまとめた論文がJournal of Cell Science誌にアクセプトされている。細胞がECMの堅さを感知する仕組みについて明らかにした本論文は、ECMの堅さ依存的な分化や増殖などのメカニズムの解明に向けて、大きな手がかりとなるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに硬さの異なる培養基板の作製方法が確立していたことで、今年度の実験をスムーズに行うことができた。また、修士課程時に取り組んでいた大腸菌を用いたタンパク質発現・精製系を利用したin vitroの実験により、培養細胞を用いて得た結果を強く支持する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにビンキュリンとビネキシンαの結合が細胞外マトリクスの硬さの感知に重要であることを明らかにしてきた。ビネキシンはタンパク質ファミリーを形成しており、他にCAPとArgBP2というタンパク質が存在する。そこで、これらのファミリータンパク質の細胞外マトリクスの硬さ感知における役割を明らかにする。また、ビネキシンにはαのN末端側領域を含まないβというスプライシングバリアントが存在し、細胞外マトリクスの硬さの感知に寄与しないことが示唆されつつある。そこで、ピネキシンαとβの細胞外マトリクスの硬さの感知における機能の違いを詳細に検討する。
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