鉄ヒ素系超伝導体の反強磁性相における電気抵抗の異方性に関する研究を行った。飛び移り積分の値の差異や相互作用の大きさなど、採用するモデルの任意性によって結果に差が出ないかを調べた。電気抵抗の理論的な解析に当たって、記憶関数を用いた解析を採用した。前年度に記憶関数の自由電子ガスにおける定式化を適切な形で多軌道電子系に拡張することに成功したので、それを適用した。 反強磁性相の基底状態を得るために、5軌道タイトバインディング模型に相互作用項を加えたハバード模型を採用した。平均場近似によって反強磁性の秩序変数を自己無撞着に解くことで電子状態を得た。この電子状態を元に、多軌道電子系の記憶関数法による電気抵抗の計算を行った。何もキャリアをドープしていない場合において、反強磁性相のフェルミ面はブリルアンゾーンの原点にホール面、その周りを取り囲むように上下に電子面、左右にディラックコーンを起源とするディラック面が存在するが、電気抵抗の異方性にはこれらの電子面とディラック面が関与する。反強磁性方向の電流を流した場合はディラック面で電子が強く散乱される一方で、強磁性方向の電流では電子面で強く散乱される。電子面がディラック面よりも大きいため、電子面で散乱される電子が多く、強磁性方向の電気抵抗が大きくなる傾向にある。パラメーターを変えた場合においても、定性的には電気抵抗の異方性の傾向が変わらないことを確認した。
また、博士課程在籍中の研究を博士論文にまとめ、京都大学に提出した。
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