研究課題/領域番号 |
12J03673
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三石 史人 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | アレクサンドロフ空間 / 局所リプシッツ可縮性 / 距離カレント / 余層 |
研究概要 |
二つの結果を得た。一つ目の結果は、筑波大学の山口孝男氏との共同研究により、アレクサンドロフ空間の任意の点に対し、ある距離近傍が存在して、その距離球は与えられた点に強変位レトラクトかつ、そのレトラクションはリプシッツ写像として取れる。正確には更に強い主張を証明した。この性質を強局所リプシッツ可縮性と名付けた。これが分かる以前には、アレクサンドロフ空間の特異点の周りのリプシッツ構造に関する結果は、Perelmanが証明したと言われているが文献が存在しないリプシッツ安定性定理という主張を除いて、知られていなかった。 (強)局所リプシッツ可縮性の応用を述べる。多面体から局所リプシッツ可縮空間への任意の連続写像はリプシッツ写像にホモトピックである事が分かる。更に、ある部分多面体上で与えられた写像がリプシッツの時は、ホモトピーは部分多面体をリスペクトして取る事ができる。特に、局所リプシッツ可縮空間内の単純閉曲線が求長可能かつ可縮ならば、円盤からのリプシッツ写像でその曲線を張る事ができる。MeseとZulkowskiによるコンパクトアレクサンドロフ空間のプラトー問題の研究と今述べた事を合わせれば、そのような単純閉曲線を張るプラトー問題の解が存在する事が分かる。コンパクト向き付け可能アレクサンドロフ空間がSturmとBacherの意味で曲率次元条件を満たしている時、Gromovの単体体積が次元や曲率に依存する定数倍の空間のハウスドルフ体積で上から評価できる事を証明した。 もう一つの結果は以下の通りである。局所リプシッツ可縮性の拡張である弱局所リプシッツ可縮性を定義した。弱局所リプシッツ空間(の対)を対象とし、局所リプシッツ写像を射とする圏を考える。これは、アレクサンドロフ空間、CAT空間、ノルム空間、グラフ、及びこれらに局所的に双リプシッツ同値な距離空間など、距離空間の幾何学の多くの対象を含む広いクラスを考える事になる。その圏の上で、特異ホモロジーと特異リプシッツホモロジーとコンパクト台を持つ整数係数カレントのホモロジーが互いに自然同型となる事を証明した。この研究には先行研究がひとつあったのだが、その証明にギャップがあった。そこで、私はそのギャップを回避する為に余層(cosheaf)の理論を用いた。余層を使い、ドラームの定理のWeilによる証明の双対の議論を行う事で、定理を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最近、筑波大学の山口孝男氏との共同研究により、有限次元アレクサンドロフ空間の大域的な位相構造や、局所的なリプシッツ構造が次第に明らかになってきた。私は、アレクサンドロフ空間が持つ良い局所リプシッツ構造の性質を満たすような一般の距離空間を考え、その位相から決まる特異ホモロジーがコンパクト台を持つ整数係数のカレントの鎖複体のホモロジーと一致する事を証明した。これは当初の研究計画からは想像していなかった事である。
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今後の研究の推進方策 |
微分可能多様体のカレントがその幾何において重要である事を考えれば、距離空間とそのリブシッツ構造に関連して、距離空間のカレントは基本的で重要な研究対象となる事が期待できる。2012年度はアレクサンドロフ空間を含む広いクラスの距離空間のカレントのホモロジーが特異ホモロジーと同型になる事を証明した。アレクサンドロフ空間は弱い意味で微分可能構造を持つ事が知られているので、詳しくカレントについて研究する事ができると考えている。特に、アレクサンドロフ空間上のプラトー問題のカレントの意味での解のリプシッツ正則性を研究する。 また、筑波大学の山口孝男氏とのアレクサンドロフ空間に関する共同研究をさらに進める。例えば、直径の上限と体積の下限を持った一定次元の曲率-1以上アレクサンドロフ空間のクラスを考えると、ある定数が存在して、そのクラスに属する任意のアレクサンドロフ空間はその定数以下の強リプシッツ可縮球で覆う事を証明する。崩壊理論をさらに研究する。
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