研究課題
病原性クラミジアはヒト体内の様々な器官に感染し、多様な病態形成を示す。例えばChlamydia trachomatisはトラコーマや性器クラミジア感染症の起因菌であり、Chlamtydia pneumoniaeに至っては粥状動脈硬化症など全身性慢性疾患のリスクファクターとして危惧されている。しかし、その感染様式や細胞修飾機構などは不明な点も多い。近年の研究で宿主免疫応答の要ともいえるIFN-γが病原性クラミジアの粘膜面での細胞内増殖を抑制することが明らかになってきた。しかしながらIFN-γ存在下で消失したクラミジアの再燃も報告されており、病原性クラミジアはIFN-γから回避するための未知なる戦略を獲得している可能性がある。我々の平成24年度に実施した研究により、ヒトリンパ球細胞内に感染した病原性クラミジアはIFN-γ存在下においても増殖できることが明らかになった。さらにトリプトファン代謝経路の酵素であるIDO(indoleamine 2,3-dioxygenease)の発現がその機序に大きく関与することを明らかにした。粘膜面などに広く存在する上皮系細胞ではIFN-γはCD119などのIFN-γ受容体に結合しシグナルが伝達される。そのシグナルはJAK/STAT経路を介してIDOの発現を上昇させる。この発現上昇はトリプトファン代謝経路を活性化するため、宿主細胞内のトリプトファン供給が増殖に必須である病原性クラミジアの増殖は抑制される。しかしながらリンパ球細胞ではIFN-γ存在下においてもIDOの発現がRNA、蛋白レベルで共に検出されなかった。またFACS解析により、CD119のリンパ球細胞での発現は認められた。以上の研究結果から、リンパ球細胞ではIDOを発現しないことにより、IFN-γ存在下においても病原性クラミジアが増殖できることが明らかになった。本研究成果は病原性クラミジアの未知なる生存戦略を示唆するものであり、クラミジア治療薬の新たな標的分子の探索に貢献するものと期待する。
2: おおむね順調に進展している
半成24年度は病源性クラミジア(C.pneumoniae, C.trachomatis)がヒトリンパ球細胞内ではIFN-γ存在下においても増殖できることを明らかにし、さらにその機序として、トリプトファン代謝経路の酵素であるIDOの発現が関わることを特定した。この成果はMicrobes and Infection(Ishida et al., 2013)に採択された。以上のことから現在までの達成度は「おおむね順調に進展している。」と評価した。
我々の研究により、病原性クラミジアは上皮細胞のみならずリンパ球細胞にも感染して増殖することが明らかになったが、その詳しい感染機序の違いは明らかになっていない。そこで今後は菌体または宿主側のどのような分子が感染成立に関わっているのかを解析・特定することを目標に研究を進める。菌体側のエフェクター分子についてはDNAマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析をはじめに行う。この方法では上皮細胞とリンパ球細胞に感染した病原性クラミジアの遺伝子発現プロファイルを比較し、リンパ球細胞感染時に特異的に発現上昇/低下している遺伝子をヒト細胞に発現させその機能解析を行う予定である。一方、宿主側因子としてはsmall GTPase活性の修飾変化に焦点を絞り解析を行うべく現在準備を進めている。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)
Microbes and Infection
巻: 15 ページ: 192-200
10.1016/j.micinf.2012.11.006
PLoS One
巻: 8
10.1371/journal.pone.0056005.
Microbial Pathogenesis
巻: 53 ページ: 41,285
10.1016/j.micpath.2012.02.005.