研究概要 |
本研究は、発達過程における化学物質曝露による精神疾患発症のリスクを、神経内分泌ストレス反応系への毒性影響に着目して評価することを目的としている。高次脳機能や社会性へ影響が既に報告されている周産期低用量ダイオキシン曝露マウスモデル(Endo et al., PLoS One, 2012 ; 他)を用い、同条件曝露が生体のストレス応答系の発達に及ぼす影響を生化学的・分子生物学的手法による解析を進めている。各種ストレス負荷、ならびに薬理的視床下部・下垂体・副腎(HPA)軸活性に対するコルチコステロン分泌パターンの解析から、周産期に高用量のダイオキシン曝露を受けたマウスにおけるHPA軸活性の亢進と中枢フィードバック制御異常を示唆する結果を当該年度までに得ていた。当該年度には、(1)中枢における主要なストレス応答(HPA軸活性)制御領域である海馬におけるストレス応答関連遺伝子発現の定量解析により候補分子を同定し、生化学的所見の生物学的基盤の解明の糸口を得ることができた。そして成熟個体を用いた生化学的解析で最も顕著な毒性(ストレスホルモンの過分泌など)が顕れていたダイオキシン高用量曝露群の海馬において有意な変動低下がみとめられた候補分子が、幼少期の海馬においても変動していることをみいだした(環境ホルモン学会、北米毒性学会にて発表)。これにより、海馬が周産期ダイオキシン曝露影響の影響を受けやすい脳領域のひとつであること、その毒性が用量依存性を顕すことが示された。海馬はHPA軸フィードバックに重要な役割を持つ脳領域であることから、生化学的知見を支持する結果となった。留意すべきことに、周産期ダイオキシン曝露マウスが成熟後に生化学的なストレス応答性異常を呈する原因として、周産期におけるダイオキシン曝露が胎生期~新生児期の神経内分泌ストレス応答系の健常な形成・発達、特にはHPA軸中枢フィードバックに関わる発達に破綻がひきおこされた可能性が示唆された。(2)周産期ダイオキシン曝露マウスの比較検討用として作製した2種類の神経内分泌ストレス反応異常モデルから得られた結果をとりまとめた(Benner et al., 論文投稿中)。当該年度には、新たに胎生期ストレス曝露モデルマウスを作製し、生化学的・行動学的・解剖学的解析を実施した。このモデルマウスは、中枢フィードバック制御の異常など、ダイオキシン曝露モデルマウスと非常に類似した表現系を示した。(3)脳の特定領域内の神経細胞における遺伝子発現レベルを解析する上で有用なレーザーマイクロダイセクション(LMD)と定量的PCRを組み合わせた解析法において、その操作過程における固定、染色、遺伝子定量解析における最適条件を見いだすための条件を検討した(Benner et al., 論文投稿中)
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