本研究では、発達期における化学物質曝露の神経内分泌ストレス反応系への毒性影響を評価することを目的としている。代表的なモデルとして、高次脳機能や社会性へ影響が既報の周産期低用量ダイオキシン曝露マウスを用い、同条件曝露が生体のストレス応答系のフィードバック機能を低下させることを前年度までに見出している。本年度は新たに、ダイオキシン高用量曝露群においてCRHR-1発現の遺伝子が海馬CA3領域特異的に減少していることを発見した。これは、海馬のCRH伝達がHPA 軸フィードバックに重要な役割を持つことを支持するとともに、ダイオキシン受容体が海馬CA3領域に多く発現するとの報告と一貫した結果である。以上の成果は学位論文としてまとめ、審査に合格した。 本研究ではまた、神経内分泌ストレス反応異常モデルマウスを作成し、周産期ダイオキシン曝露マウスとの比較検討を行った。成果として、幼少期ストレスにより成熟後の社会性行動に影響が顕れること、大脳皮質辺縁系における神経活動異常について見出し、学術論文にて発表した(Pysiology and Behavior)。ダイオキシン曝露マウスと共通してみられた行動異常と、その神経基盤については総説にもまとめた(Frontiers of Neuroscience)。更に、前年度までに作成した胎生期ストレス曝露モデルマウスについてもフィードバック制御の異常など、ダイオキシン曝露モデルマウスと非常に類似した表現系を呈することも見出した他、左右の側脳室の大きさに偏りがみられるという統合失調症の当事者と共通する解剖学的所見や精神疾患様行動偏倚をみいだした(国際学会にて発表)。これは、母体のストレスと精神疾患の発症との相関を示唆する疫学報告と一貫した結果である。
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