研究課題/領域番号 |
12J03737
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本澤 有介 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 腸内細菌叢 / 有益な細菌(good bacteria) |
研究概要 |
炎症性腸疾患(IBD)には腸管内の様々な抗原に対する過剰な免疫応答が関与していると考えられ、中でも腸内細菌は腸炎の発症及び慢性化に重要な役割を果たしている。また、IBD患者に対する腸内細菌を標的としたプロバイオティクス治療等から宿主に有益な細菌(goodbacteria)の存在が指摘されている。本年度は、マウス及びヒトにおける腸内細菌叢と腸炎の関係を検討した。 方法) 自然腸炎発症マウスであるInterleukin(IL)-10ノックアウト(KO)マウス及び野生型(WT)マウスより糞便サンプルを回収し、腸内細菌叢の比較を行った。更に、健常人の糞便サンプルを回収し、ヒト腸内細菌叢の解析が可能であるかについても検討した。 結果) (1)IL-10KOマウスでは週齢に応じて腸炎の増悪を認めたが、WTマウスでは腸炎は認められなかった。また、腸内細菌叢の解析の結果、IL-10KOマウスとWTマウス間の腸内細菌叢は大きく異なっていた。 (2)腸炎の発症していない週齢のIL-10KOマウスと腸炎の発症したIL-10KOマウス間の腸内細菌叢に違いは認められず、腸炎の程度と腸内細菌叢には明らかな関係は認められなかった。 (3)健常人のヒト腸内細菌叢の解析も同様の手法で可能であった。 考察) IBDモデルマウスと通常マウスでは腸炎発症の有無にかかわらず腸内細菌叢が異なる事が明らかとなった。従って、異なる遺伝子背景により腸内細菌叢に違いが生じていると考えられ、腸内細菌に起因する腸管内抗原が腸炎発症に関与している可能性が示唆された。これらの結果から、腸内細菌叢の是正は炎症性腸疾患の治療に重要であると考えられた。今回、ヒト検体による腸内細菌叢の解析が可能であった事から、IBD患者の糞便サンプルを用いた腸内細菌叢の解析を行う事により、個々の患者の腸内環境に有益な細菌(good bacteria)を同定できるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本実験における腸内細菌叢の解析により、遺伝子背景の異なるIBDモデルマウスと通常マウスの腸内細菌叢は異なっている事が判明し、ヒト糞便検査による解析も可能であった。この結果より実験計画に示した有益な細菌(good bacteria)の同定が可能と考えられ、Immunostimulatory sequence oligodeoxynucleotides(ISS-ODNs)を合成予定である。今までの実験結果より、マウスと異なりヒト腸内細菌叢は健常人間でも異なっており、理由として健常人の遺伝子背景や環境が異なる事がこの差異を生じていると考えられた。この為、有益な細菌(good bacteria)の同定にはIBD患者だけでなく、より多くの健常人の腸内細菌叢の解析が必要であると思われ、実験はおおむね順調に進展していると思われるが、その解析作業のためより多くの検体が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
腸内細菌叢が予定通り解析可能であった事や、遺伝子背景の異なるマウス間で腸内細菌叢が異なっていた事より、腸炎の発症には腸内細菌の影響が関与していると考えられ、当初の実験計画と同様の研究を予定している。今回の実験結果よりヒト腸内細菌叢は健常人間でも異なっている事が判明し、遺伝子背景の均一なマウスに比較してより多くのサンプルによる解析が必要なため、検体数を増やして有益な細菌(good bacteria)の同定及びISS-ODNsの作成を行う予定である。その後、作成したISS-ODNsの効果を検討するためにIBD患者及びIBDモデルマウスの腸管組織より樹状細胞及び粘膜内リンパ球を単離・培養し、ISS-ODNsによる刺激を加える事で各細胞での反応性を培養上清中のサイトカイン濃度や細胞の蛋白発現により検討する。さらにISS-ODNsをIBDモデルマウスに皮下注することで腸内細菌移入マウスを作成し、その腸炎抑制効果を検討する。
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