研究課題/領域番号 |
12J03763
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石田 友梨 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | イスラーム / ムガル朝インド / 霊魂論 / ネットワーク / 18世紀 / アラビア半島 / 思想史 / スーフィズム |
研究概要 |
本研究の目的は、イスラームにおける霊魂論が、倫理規範から社会改革までを含む実践哲学であることを示すことである。上記の目的を達成するため、本研究ではムスリム(イスラーム教徒)の倫理規範の向上を通じた社会改革を唱えた18世紀南インドの思想家ワリーウッラー(1703~62年)を対象とする。倫理規範を説くスーフィズム(イスラーム神秘主義)の霊魂論と、改革思想の基盤となる政治社会論を説いたワリーウッラーの著作を分析することにより、両者が共通の倫理を掲げる実践哲学として捉えることが可能であり、個人の霊魂を高めることが社会全体の改善に結びついていることを明らかにすることを目指す。 本年度は、前年度までに解読したワリーウッラーの著作の内容に基づき考察を進めた。これまでワリーウッラーは、イスラーム政権であるムガル朝の衰退に伴い、多数派を占めるヒンドゥー教徒に対してムスリムが団結するために宗教実践を唱えたとされてきた。しかし、ワリーウッラーの思想形成を考察するにあたっては、アラビア半島への留学の影響も無視できない。当時のアラビア半島では、ハディース学に基づく宗教実践を唱える道徳再構築運動が興っていた。ワリーウッラーの師弟関係を調べていった結果、この運動の中心人物と非常に近い繋がりをもっていたことが判明した。この結果を受け、霊魂論に関するワリーウッラーの著作を読み直し、インドにおける師の教えと、アラビア半島における師の教えの両方を受け継いだ上で、弟子にはそれらの教えを発展させた内容を伝えていると結論づけた。ワリーウッラーの思想が、インドのみではなく、当時のイスラーム社会全体と強い結びつきをもちながら形成したことを示す本研究の成果を博士論文にまとめ、博士号を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初はワリーウッラーの思想をインドの政治状況からのみ捉えようとしていたが、本研究が進むにつれ、文献的な証拠からアラビア半島との結びつきとも合わせて検討できることが判明したため。
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今後の研究の推進方策 |
ワリーウッラーが留学していた18世紀のアラビア半島では、スーフィズムと法学の双方を核とする道徳再構築運動が興っていた。今後は道徳再構築運動に焦点を当てることにより、スーフィズムと法学の結びつきを考察することで、スーフィズムの道徳規範と実社会の法規範の一体性を示す。
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