研究課題/領域番号 |
12J03768
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
平野 貴俊 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 音楽学 / 放送 / 音楽政策 / 現代音楽 / 文化政策 / アーカイヴ(アーカイブ) / フランス / 20世紀 |
研究概要 |
本研究は、フランス・ラジオ放送・テレビ公社Office de Radiodiffusion Télévision Française (ORTF、運営期間1964-1974)が行った現代音楽(本研究では当該時期に創作・初演された音楽と定義する)の普及活動が、当時のフランスの音楽界に対していかなる意義を有したのかを検討することを目的とする。昨年度(平成25年度)は、平成24年度にフランスで行った調査にもとづき、ORTFによる現代音楽普及活動の実態がいかなる理念によって支えられていたのかを明らかにした。 ORTFの前身フランス・ラジオ・テレビRadiodiffusion Télévision Française (RTF、運営期間1948-1964)で音楽活動の監督を務めたアンリ・バロー(1900-1997、在任1948-1964)は、フランス文化のプレスティージを対外的にアピールするための道具、またフランス国民の教養を高めるための道具として現代音楽普及活動を位置づけた。この理念は、ORTFにおけるバローの後継者ミシェル・フィリッポ(1925-1996、在任1964-1972)にも受け継がれている。ただしフィリッポは、音楽放送の教養的側面を重視しながらも、レコード産業の台頭に関心を向け、視聴者の好みにより柔軟に応じた放送内容を構想することに配慮していた。フィリッポの理念がバローの関心をいくぶん忠実に反映しているのに対して、ORTFの後身ラジオ・フランスRadio France(運営期間1974-)で最初の音楽監督となったピェール・ヴォズランスキー(1931-1994、在任1974-1981)は、それまで重視されてきた「フランス文化の対外的アピール」と「教養の涵養」という役劇を音楽放送に引き続き与えることを拒否し、2人の前任者の方針との決別を明確に宣言した、バローとフィリッポがいずれもラジオ放送の監督から出発したのに対し、ヴォズランスキーはフランスで初めてクラシック音楽のテレビ・ドキュメンタリーを制作した人物である。RTFおよびORTFとラジオ・フランスとの間のこうした音楽政策上の相違は、フランスにおけるテンビの普及、またその背景にある60年代における経済の発展と決して無関係ではないだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前々年度および前年度の調査によって、ORTFの音楽政策がその前身のRTFおよび後身のラジオ・フランスにおける音楽政策といかなる点で相違するのか、という本研究の要となる問題に対する答えを概ね浮かび上がらせることができた。これによって、本年度は論点の整理を予測以上に順調なペースで進め、執筆に着手することができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は①フランス公共放送による現代音楽普及活動の実態を明らかにするための資料収集、②文化省音楽行政に関連する資料の探索、を引き続き行う。以上の調査と並行して、③本計画で収集された文字資料および音響資料を補完することを目的とした、研究対象期間におけるフランス公共放送で音楽活動の監督に携わった人々の業績の解明、を行う。これらの調査を通して、公共放送の音楽活動がいかなる文化政策上の関心によって規定されていたのか、またその音楽活動はそうした問題意識をどのような形で具体的に表明したのかといった、本研究の核心をなす問題提起を構想し、論文執筆作業に着手する。
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