研究課題/領域番号 |
12J03790
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中筋 朋 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | フランス演劇 / 19世紀末 / 俳優論 / 自然主義 / 象徴主義 |
研究概要 |
本研究の対象は、これまであまり研究されてこなかった19世紀末のフランスの演劇論である。演劇についての資料は国内では限られているので、フランスでの調査をおこなった。渡仏の主な目的は、電子テクスト化もされておらず、フランス国立図書館に行かなければ見ることのできない雑誌『芸術と批評』(1889-1892)を閲覧することであった。19世紀末フランスの演劇をめぐる状況の特徴として、自然主義演劇と象徴主義演劇が時期をほぼ同じくしていることが挙げられる。このため、この時代の演劇はしばしば「自然主義と象徴主義の交差点」と呼ばれ、他のジャンルでははっきり反目していたこの2つの流派が混ざり合い、ときにどちらもの特徴をそなえたような作品が生まれている。そしてこの交錯の場となったのが雑誌『芸術と批評』なのである。しかし、この雑誌が閲覧しにくいためもあってか、これまではこの雑誌とその発行人ジャン・ジュリアンについては充分な研究がおこなわれてこなかった。そこでこの雑誌を詳細に読み解き、「自然主義と象徴主義の交差点」が実際にどのようなものであったのか検討した(2012年10月口頭発表〉。 また、19世紀末に非常にもてはやされていたマリオネット演劇についての研究をおこなった。民衆演劇として軽く見られていたマリオネットだが、19世紀末から20世紀初頭にかけて、単なる娯楽としてではなく、あらたな俳優のモデルとして考えられることが多くなる。劇作家、あるいは演劇人が見ていたマリオネットの可能性はなんだったのかを、フランス象徴主義に大きな影響を及ぼしたベルギーを例にとり分析した(2012年9月口頭発表、論文は松籟社から今年度中に出版予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の前半は東京に出張して学会に出席し、19世紀末のフランスの状況について非常に有益な議論を持つことができた。またフランス出張を効率的にするための下調べをおこなった。フランス出張中は、まだ電子化されていない19世紀末の雑誌を閲覧することができ、あらたな発見が多くあった。これまでタイトルだけが有名で精読されてこなかった資料を精査することができたからである。そしてその成果を日本フランス語フランス文学会秋季大会で発表し、貴重な研究だと高い評価を得ることができた。また、19世紀末フランス象徴主義を考えるうえでは不可欠のベルギーの状況についても発表の機会を得たのも収穫であった。これらの成果は、後半さらに2本の論文にまとめ現在校正中である。
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今後の研究の推進方策 |
演劇についての資料は日本には少なく、文学のものにくらべて電子化も遅れているので、今後もフランスで集中的に資料収集をすることが必要である。ただしそれを効率的におこなうため、日本での準備も欠かせない。昨年度は自然主義演劇の調査が中心だったので、本年度は象徴主義演劇について下調べをおこない、その後フランスで資料収集をおこなう予定である。昨年度の研究は非常に効率的だったので、今年度も引き続き同じ方法で研究を進める。また、今年度に博士論文を提出するので、フランス出張後は執筆に集中し、前年度と今年度の研究の集大成とする予定である。
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