研究課題/領域番号 |
12J03790
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中筋 朋 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | フランス演劇 / 演劇理論 / 俳優論 / 自然主義 / 象徴主義 |
研究概要 |
本年度の研究成果としては、博士論文「無意識へのアプローチとしてのボディワーク――9世紀末フランスにおける俳優訓練術の萌芽」を仕上げたことが大きい。このために、まず春にフランスに渡り、調査をおこなった。博士論文では、まず19世紀末フランスの演劇論と戯曲を詳細に検討した。当時の神経生理学や実験音声学などの発展に見られる潜在的なものへの興味を背景に見据えながら読み解くことにより、演劇理論のみならず、当時の文学理論の解釈についてもあらたな視点を提供することができた。論文の後半では、このような劇の変化を受けて、演技へのアプローチがどのように変化していったかを分析した。ここからわかったのは、当時の演劇の変化が俳優に要請していたのが無意識を「獲得」するという逆説的な状態だということである。本論では、さらに自由劇場や芸術劇場、制作劇場での演技に対する取り組みを分析しながら、19世紀末の演劇人たちがいかにしてこの逆説を可能にしようとしたかを浮き彫りにした。そこで明らかになったのは「脱力」と「型」という二つの表現の基盤である。これは、20世紀を通じて発展する俳優のためのボディワークの柱ともなっているものであり、これまで実践的な視点から読まれることのなかった19世紀末の演劇論からこのような側面を引き出すことができたのは、本論文の大きな収穫であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、まずフランスに出張し、博士論文に必要な調査をした。帰国後は、その調査の結果をもとに博士論文を完成させ、これまでの研究をひとつの理論として提出した。とりわけ、19世紀末の演劇理論を詳細に読み込み、実際の上演についても扱うことによって、20世紀の俳優訓練術へとつらなっていく特徴を抽出できたことは大きな収穫であった。また、20世紀演劇に大きな影響を及ぼすマリオネットについての論文が、松籟社から出版されたことも、本年度の大きな達成である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、博士論文の出版の準備を進めるとともに、19世紀末に見られた俳優訓練術の萌芽が20世紀初頭にどのように発展していくかを検討していく。そのために、まずモダンダンスの誕生と演劇との関わりを詳しく考察する。具体的な方法としては、フランス国立図書館での調査を通して、モダンダンスのフランスにおける受容と演劇人たちの反応を探る。次に、20世紀初頭に俳優のための体系的な訓練を始めたコポーの学校について調べ、身体表現と俳優のための訓練との関連性を分析する。同時に、パントマイムやアクロバットなどの大衆芸能と演劇との関連と、その可能性についても調査し、論じる予定である。
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