今年度も二酸化炭素固定化反応のさらなる検討を行った。二酸化炭素は室温、大気圧下において気体であり、その有機分子への効率的な導入は従来の有機合成化学では困難とされていた。そこでこれまで開発した遷移金属アミド触媒を反応に適用した知見を用いて、二酸化炭素のような不活性な基質の活性化を行うことができると考えた。前年度までの検討で、二酸化炭素の熱力学的安定性を克服するため反応基質としてオルト安息香酸アジドを選択し、系中でイソシアネートを生成した後に分子内環化によりイサト酸無水物を与える反応の検討を行ったところ、水・有機溶媒混合系において界面活性剤を用いてミセル構造内で反応を行うことにより、反応が円滑に進行することを見いだした。この反応系では、水が非常に重要な役割を果たしていることが明らかになっている。そこで今年度は、水を溶媒として用い、その特性を活用する他の二酸化炭素固定化反応の検討を行った。 プロパルギルアミン誘導体に対して各種金属化合物を触媒として二酸化炭素を反応させ、固定化の検討を行ったところ、銀や銅の化合物を触媒として用いた際に、二酸化炭素を含む環化生成物が既存の反応系よりも高収率で得られることが分かった。この反応においても水が溶媒として重要であり、二酸化炭素固定化反応における水溶媒の有用性が明らかになった。さらに界面活性剤一体型配位子を金属に対して用いる検討を行ったが、収率の改善は見られなかった。本反応では基質のアミン部位が重要であり、アミンの求核性や、金属とアミン部位との相互作用が反応の進行に深く関わっている可能性があることがわかった。
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