研究課題/領域番号 |
12J03911
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
田中 泰章 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | サンゴ / 褐虫藻 / 環境ストレス / 温暖化 / 海洋酸性化 / 富栄養化 / 光合成 / 石灰化 |
研究概要 |
本研究は様々な時間的・空間的スケールで進行する環境変動を複合的に捉え、サンゴ礁形成の中核をなす主要石灰化生物(造礁サンゴ・有孔虫・石灰藻)の生理生態に与える影響を実験的に評価することを目的とする。グローバルに進行する海洋の酸性化と水温上昇が、石灰化生物の成長に負の影響を与えることが先行研究によって報告されてきたが、本研究ではそこにローカルな水質変化(海水の富栄養化)が加わることによって引き起こされる複合的な効果を検証する。具体的には、二酸化炭素濃度や水温、栄養塩濃度を複合的に変化させた環境下でサンゴ礁石灰化生物の室内飼育実験を行い、成長速度・光合成速度・石灰化速度などを測定して影響評価を行う。本年度は造礁サンゴを対象として、「高水温+富栄養化」、「酸性化+富栄養化」などの複合効果を検証し、さらにサンゴー褐虫藻共生系の窒素代謝に関する実験を行った。「高水温+富栄養化」実験では、サンゴを低栄養塩・高栄養塩濃度下の水温27℃で25日間飼育し、その後、同じ栄養塩条件のもと31℃の高水温へ移行した。この実験デザインは、異なる栄養塩環境に生息するサンゴが夏に高水温に晒されるケースを想定したものである。その結果、高栄養塩下のサンゴは低栄養塩下のサンゴに比べてより多くの褐虫藻を失ったが、損失割合は両者の間で有意な差は見られず、高水温ストレスは栄養塩環境に関わらず同程度の速さでサンゴの白化を促進すると考えられた。「酸性化+富栄養化」実験では、サンゴを通常のpH海水を用いてコントロール水温(27℃)と高水温(32~33℃)の条件下で飼育し、その後、海水のpHを酸性化条件へ移行した。それぞれの水温下で生育するサンゴが海水の酸性化に対してどのような応答を示すのかを、サンゴ内の褐虫藻・クロロフィル密度、骨格成長速度などを測定することによって評価した。これらの研究成果から、サンゴ礁生態系の将来的な変化を推測する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた実験は順調に遂行しており、得られたデータを用いて論文もすでに投稿している。一部のデータは現在も解析中で、順次公表していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は造礁サンゴに関する追加実験を必要に応じて行うほか、有孔虫または石灰藻(現在、対象種を選別中)についてもサンゴと同様に飼育実験を行い、環境変動の影響を評価する。成長(大きさ、重量)・光合成・石灰化などの基本的な代謝の変化を測定し、単一ストレスの場合と複合ストレスの場合で影響が異なるか、対象とする種によって応答が異なるか、などの基礎データを得る。これらの実験から、複合効果を加味した各環境要因の閾値を推定し、単一のストレス応答実験では評価できなかった新たな将来予測につなげる。
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