研究課題
背景これまで私達の先行研究では、皮膚浸軟(ふやけ)モデルラットを用いて便失禁に暴露した皮膚状態を再現し、浸軟皮膚へ経皮侵入したタンパク質分解酵素および細菌が内部から組織を分解することによる皮膚障害発生過程を明らかにした。便失禁による皮膚浸軟を考える上で、便中消化酵素の影響を考慮することは極めて重要である。前述の皮膚浸軟モデルでは、主要な便中消化酵素であるタンパク質分解酵素に着目し、皮膚浸軟に及ぼす影響を検証してきた。しかし、タンパク質分解酵素と並ぶ主要な便中消化酵素である脂質分解酵素によって生じる組織学的変化は明らかになっていない。脂質分解酵素が皮膚浸軟、タンパク質分解酵素に及ぼす効果も不明であり、さらに消化酵素の影響が加わった皮膚浸軟の治癒過程も解明されていない。そこで本研究では、水分、タンパク質分解酵素、脂質分解酵素の3要因が組織学的変化に及ぼす影響を明らかにすることを目的に実験を行っている。方法6ヶ月齢雄性SDラットの除毛3日後の背部皮膚を採皮し、真皮側を培養液に浸しながら、皮膚表層に皮膚浸軟処理(水分)あるいは消化酵素処理(タンパク質分解酵素、脂質分解酵素)を行った。皮膚処理終了後の皮膚組織の組織学的解析を実施した。結果・考察水分処理とタンパク質分解酵素処理を実施した皮膚では、真皮層における組織損傷が認められ、さらに脂質分解酵素処理が加わると組織損傷が増強した。水分処理と脂質分解酵素処理のみを実施した皮膚では組織学的変化が認められなかった。このことから、脂質分解酵素は組織学的変化を生じるよりも、角質細胞間脂質の分解により皮膚バリア機能低下を加速させ、タンパク質分解酵素の経皮的侵入による組織障害の発生を促進することが示唆された。便失禁に暴露した皮膚は、皮膚浸軟にこれら2種の消化酵素の影響が同時に加わることで、皮膚障害の発生が加速している可能性が示唆された。
3: やや遅れている
今年度実施予定(平成25年度3月まで)の実験計画を大きく2つ挙げており、現段階(平成25年7月)では実験計画2つのうちの最初の1つを実施している。最初の実験において大変興味深い結果が得られ、更なる解析を計画に追加したためである。
今後、皮膚浸軟における脂質分解酵素の影響をex vivo実験でより詳細に検証する(皮膚バリア機能低下の検証 : 蛍光粒子の経皮的侵入の程度の観察、超微細構造の観察、角質細胞間脂質の染色等)。その後、脂質分解酵素の影響が加わった皮膚浸軟の治癒過程をin vivo実験で検証する。また、皮膚浸軟における組織損傷に対する介入法を考案し、その効果をin vitro実験(ケラチノサイト遊走能の検証)、in vivo実験(作成した組織損傷の治癒過程の観察)により検証する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌
巻: 17巻3号(印刷中)
Biological research for nursing
巻: 15(3) ページ: 347-355
10.1177/1099800412437032
European Oncology Nursing Society
巻: (印刷中)
10.1016/j.ejon.
