研究課題/領域番号 |
12J03979
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 真妃 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 気孔孔辺細胞 / 細胞膜H^+-ATPase / 免疫組織染色 / キナーゼ阻害剤 |
研究概要 |
植物は体内と大気とのガス交換を行うために、表皮に気孔と呼ばれる孔を持つ。この孔は一対の孔辺細胞から構成されており、植物はその開度を調節することにより光合成に必要な二酸化炭素の取り込み、蒸散や酸素の放出を行っている。気孔開口は太陽光の中でも特に青色の光に誘導される。青色光が孔辺細胞に照射されると、青色光受容体であるフォトトロピンから青色光シグナル伝達が流れ、細胞膜に存在する細胞膜H^+-ATPaseが活性化される。細胞膜H^+-ATPaseの活性化により、H^+が孔辺細胞外へと放出され、細胞膜の過分極が起こる。これにより細胞内の浸透圧が変化し、水が流入して孔辺細胞の体積が増加、よって最終的に気孔が開口する。この孔辺細胞での青色光シグナル伝達において、細胞膜H^+-ATPaseの活性化は気孔開口の駆動力を作り出すために重要であると考えられている。H^+-ATPaseの活性化にはC末端から2番目のスレオニン残基のリン酸化が必須であるが、このリン酸化を直接引き起こすプロテインキナーゼは未だ同定されていない。これまでに私は、免疫組織染色で孔辺細胞の細胞膜H^+-ATPaseのリン酸化状態を直接可視化する手法を確立した。本研究では、免疫組織染色とプロテインキナーゼに対する阻害剤を網羅したKinase inhibitorスクリーニングKit(BIOMOL社)を用いて、薬理学的にH^+-ATPaseをリン酸化するキナーゼを探索している。その結果、80種のうち2種の阻害剤が、青色光に依存したリン酸化と気孔開口を阻害することがわかった。またこの2種の阻害剤は、孔辺細胞のH^+-ATPaseのリン酸化を保持して活性化させるカビ毒素フシコクシン処理によるリン酸化も阻害した。このことから、この2種の阻害剤はH^+-ATPaseのリン酸化を引き起こしているキナーゼを阻害している可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、孔辺細胞細胞膜H^+-ATPaseのリン酸化を引き起こしているキナーゼの同定のため、80種のキナーゼ阻害剤から免疫組織染色と気孔開度測定により、青色光に依存したH^+-ATPaseのリン酸化を阻害する阻害剤を2種に絞り込んだ。今回効果が示された阻害剤は、これまで植物においてH^+-ATPaseに影響を示す報告はされておらず、本研究により初めて阻害効果が示された。この新たな知見によりH^+-ATPaseをリン酸化するキナーゼの早期的な同定が今後見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で用いているキナーゼ阻害剤は動物のキナーゼを標的とするものであるため、今後は選抜された2種の阻害剤がシロイヌナズナにおいてどのキナーゼを阻害しているか調べる必要がある。そのため、シロイヌナズナデータベースを用いて、2種の阻害剤の標的キナーゼのホモログを探索する。ホモログがみつかった場合、そのキナーゼの変異体と過剰発現体を作製し、これら植物体でのH^+-ATPaseのリン酸化レベルを調べる。それに伴い気孔開度にも影響がみられるか観察する。最終的に、シロイヌナズナのホモログとして単離したキナーゼが孔辺細胞のH^+-ATPaseを直接リン酸化していることを示す。
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