研究実績の概要 |
植物の表皮に存在する気孔は一対の孔辺細胞により構成され、太陽光に含まれる青色光に応答して開口する。孔辺細胞に青色光が当たると青色光受容体フォトトロピンが光を受容し、細胞内シグナル伝達を誘導する。このシグナル伝達は、プロトンポンプである細胞膜H+-ATPaseを活性化して気孔を開口させる。H+-ATPaseの活性化にはC末端のリン酸化が必要であり、青色光はこの部位のリン酸化を誘導する。ところが、フォトトロピンからH+-ATPaseのリン酸化に至るまでのシグナル伝達は未解明な部分が多く残されている。そこで本研究では、青色光に応答したH+-ATPaseのリン酸化を仲介するプロテインキナーゼの探索と同定を行った。 これまでに私は、免疫組織染色法を用いて孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseのリン酸化を可視化する手法を確立した (Hayashi et al., 2011)。この手法を利用し、青色光に応答したH+-ATPaseのリン酸化を抑制するプロテインキナーゼ阻害剤を阻害剤ライブラリーから選抜した。用いた阻害剤の標的は哺乳類のキナーゼであるため、シロイヌナズナにおける標的をアミノ酸配列の相同性検索により予測した結果、一つのMitogen activated kinase kinase kinase (MAPKKK) が候補として挙がった。そこで、そのMAPKKKをコードする遺伝子のT-DNA挿入変異株を入手し、気孔の表現型を解析した。その結果、この変異株において青色光に依存した気孔開口とH+-ATPaseのリン酸化が損なわれていることが見出された。本研究により、私は青色光に依存した気孔開口を仲介する新規のシグナル伝達因子として一つのMAPKKKを同定し、このキナーゼをProtein kinase in stomatal opening (PKSO)と名付けた。
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