(1) 気象研究所の全球大気モデルMRI-AGCM3.2Hの海上風を外力として波浪モデルWaveWatch IIIを駆動させ,現在気候(1979-2009年)と温暖化条件下の将来気候(2075-2099年)における波浪の長期積分を,昨年度実施した.このデータを用いて,極大波の将来変化について詳細な解析を行った.全球スケールでは,熱帯低気圧以外の気象要因による年最大波高の将来変化を解析した.年最大波高の将来変化は±1m程度である.年最大波高の将来変化の空間分布は,本研究のモデルによる平均波高の変化および既往の研究の平均波高の将来変化と同様なものであり,南半球の高緯度で波高増加や中緯度海域と北大西洋の広い範囲での波高減少で特徴づけられる.北西太平洋においては,台風による極大波の将来変化を解析した.10年再現確率波高の将来変化は±4m程度の変化がある.10年再現確率波高の変化は,台風経路の東へのシフトによることがわかった.既往の研究において台風の経路が気候変動条件下でシフトすること知られているが,経路シフトによって極大波の変化が起こることから,影響評価の面で経路シフトの評価は重要であることがわかった. (2) 温室効果ガス濃度を外力とした全球気候モデルによる気候予測の確実性は,複数のモデル間での整合性で評価される.アンサンブル予測に基づき,北太平洋における波浪変化の確実性を検討した.さらに,その波浪変化を大規模循環場の変化と関連づけ,気候学的視点からの知見を得ることを試みた.結果,温暖化条件下における北西太平洋北緯30度付近の冬季波高減少は,複数のモデル間で非常に整合性が高く,確実性の高い波浪変化予測であることがわかった.さら,その波高減少は,大気の大規模循環場の特徴的な変動パターンの1つであるWest Pacific パターンの正の変化に対応したものであることを明らかにした.
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