研究概要 |
(1)PI(3,4)P2をモニターするFRETバイオセンサーを発現するトランスジェニックマウスの準備 バイオセンサーの機能評価として、PI(3,4)P2をモニターするFRETバイオセンサーを発現するトランスジェニックマウスから腹腔マクロファージを単離し、種々の刺激を添加し、バイオセンサーの機能を確認した。 マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)を添加すると、PI(3,4)P2が増加し、PI3K阻害剤であるLY294002を添加すると、PI(3,4)P2が減少する。これらの結果より、作成したトランスジェニックマウスに発現するPI(3,4)P2バイオセンサーは生体組織内においても機能することが明らかになった。 (2)二光子励起顕微鏡による乳腺観察法の確立 乳腺をライブイメージングする上で問題となることは、呼吸・拍動による画像の揺れである。これを低減するために張力をかけて糸で乳腺脂肪組織を固定する方法を確立した。この手法を用いることで、倒立型の二光子励起顕微鏡下で生きたマウスの正常乳腺を観察し、画像取得することが可能となった。スライスで得た乳腺画像から、乳腺を構成する乳腺上皮細胞、筋上皮細胞を形態により鑑別することができた。スライス画像を三次元構築した立体構造図により、生体における乳腺の管腔構造を立体的に観察することが可能である。 乳腺もしくは乳がんの観察において、皮膚を切開し組織を露出して観察することを予定しているため、長時間のタイムラプス撮影を行う上で問題となることが組織の乾きである。これを防ぐため、水を含ませた綿で露出部位を囲み、さらにサランラップで覆う工夫を行った。その結果、7時間のタイムラプス撮影において組織を乾燥させることなく、イメージングを行うことに成功した。 これらの確立した手法を用い、PI(3,4)P2バイオセンサーを発現するマウスの正常乳腺を観察した。乳腺管腔構造の内腔ドメインでPI(3,4)P2の発現量が低く、外腔ドメインで高いことが確認できた。これらの結果は、イヌ腎臓上皮細胞MDCKを3次元培養した際に見られる管腔構造におけるPI(3,4)P2の動態に等しく、3次元培養で明らかにされているメカニズムと同様に生体内でも管腔構造が維持されていることが示唆される。 (3)FRETバイオセンサーを発現する乳がんモデルマウスの作成当初の予定ではARCMinマウスとPTEN欠失マウスを乳がんモデルマウスとして用いる予定であったが、どちらも乳がんが発生するまでに時間がかかることから、ヒトHER2陽性乳がんのモデルマウスとして有名なMMTVneuマウスを用いることとした。FRETバイオセンサーを発現する WMTVneuマウスは既に得ており、がんの発生を待ち、さらなる実験を進める予定である.
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