研究概要 |
最終目標は磁場配向した微結晶懸濁液のin-situ X線回折測定による結晶構造解析である。この研究が成功すれば結晶構造解析の効率を飛躍的に上昇させることが可能となり、バイオマスの応用や創薬の開発に大きな効果を生むことができる。あこれまでの研究で実際に微結晶懸濁液からの結晶構造解析を達成するためには、微結晶の磁場配向をより精密にする必要があることが言われていた。まず私は磁場配向の精密化に結晶の磁化率(x_1>x_2>x_3)の異方性比r_x(=(x_2-x_3)/(x_1-x_2)が必要であることを突き止めた。しかし従来、反磁性の物質では微結晶試料からr_xを求める方法がなかったため、その手法も開発した。具体的には磁場を印加した微結晶懸濁液のin-situ X線回折測定からr_xを求める方法を理論的に求めて実験により証明した。印加する磁場の種類は原理上は何でも良いが、今回は扱いが比較的単純で汎用性の高い等速回転磁場を用いた。まず微結晶懸濁液に等速回転磁場を印加した場合、その懸濁液から得られるX線回折図の(hkl)面における回折スポットの半価幅Hwと(hkl)面の位置について成り立つ式を求めた。この式に実際に実験から得られた回折スポットの半価幅を代入することでrcを求めることができる。実際にL-アラニンとD・マンニトールにおいて、この手法の有効性を確認した。この手法から求めたL-アラニンのr_xは1.0で文献値[1]と等しい。一方、D-マンニトールでも実験値1.2は文献値1.4[2]とほぼ等しかった。このように実験により、この手法の有効性を証明できた。これにより微結晶のより精密な磁場配向が可能となり、微結晶懸濁液のin-situ X線回折測定による結晶構造解析法の開発に大きく近づいた。 あまた、これまでの回転装置は印加できる磁場強度および観察できる回折範囲が厳しく制限されており、微結晶懸濁液のin-situ X線回折測定による結晶構造解析は非常に困難であった。そのため、私は回転装置の改良に取り組んだ。新しく作製した回転装置は磁場強度が倍になり、回折範囲も通常のタンパク質の結晶構造解析に必要な2Åとなっている。実際、この装置を用いてL-アラニン微結晶懸濁液のin-situX線回折測定を行ったところ、1.9Åまでの回折スポットを観察することに成功した。現在はこの回折図から結晶構造解析が可能かを検討している。 ・参考文献[1]K.Ogawa, Thesis, Iwate University(2005). [2]K.Lonsdale : Proc. Roy. Soc. London, A171, 541-568(1939).
|