研究概要 |
1.L-アゼチジン-2-カルボン酸加水分解酵素(A2CH)について、触媒残基Asp12と直接相互作用する残基の変異体T16A,K152A,D185AおよびD185Nを作製した。いずれの変異体も酵素活性を示さなかったため、これらの変異体を用いてX線結晶構造解析を行った。構造解析に成功したTl6A,K152A,D185N変異体は野生型に比べ、活性部位周辺の構造が変化していた。このことから、Thr16,Lys152,Asp185は酵素の触媒反応だけでなく、水素結合および静電相互作用を通じた活性部位の構造維持にも重要な役割を果たしていることが示された。 2.A2CHをESI-MSによる分析にかけて分子量測定を行った。酵素と基質を短時間反応させたサンプルを分析したところ、酵素単独の際の分子量の位置と、触媒残基と基質とが結合し、元の酵素より分子量が増加したエステル中間体のものであると考えられる位置の2か所にピークが生じた。これにより、A2CHの触媒反応はエステル中間体の形成を経て起こるものであると示された。 3.野生型酵素と基質を共結晶化させ、生じた結晶を用いてX線構造解析を行った。得られた結晶のうち一つは活性部位が閉じたクローズ型の構造であった。酵素の活性部位には酵素反応の生成物である(R)-2-ヒドロキシ-4-アミノ酪酸が結合していた。従来の研究により、A2CHの構造は「オープン型(酵素単独)」「半オープン型(酵素基質複合体)」「クローズ型(D12N)」が得られていた。これらを今回得られたクローズ型構造の酵素生成物複合体と比較することで、A2CHの触媒反応における構造変化の過程が明らかになった。また、X線構造から生成物の立体化学的な配置が解明されたことで、A2CHの触媒反応は、立体配置が反転するタイプの反応であることが示唆された。
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