研究概要 |
高等真核生物にはWntシグナル、Hedgehogシグナル、Notchシグナル、TGF-βシグナルなどの各種のシグナル伝達経路が存在する。これらのシグナル経路は、密接なクロストーク機構のもとに協調的な制御を受けることが知られ、その破綻はがんを含めた各種疾患の発症に関与している。しかし、そのクロストークを調節する分子機構は未だ不明である。そこで本研究では各種シグナルの集約点となりうる核内分子parafibrominに着目し、parafibrominが司るクロストーク機構の解明を目指している。昨年度までに得られた実験結果から、parafibrominはWnt/Hedgehog/Notchの3つのシグナルに関与し、それらシグナル間のクロストーク機構を制御することが示唆されていた。しかし、これらの知見は培養細胞を用いて得られたものであり、生物個体の生体内(in vivo)でのparafibrominクロストーク機構の存在は不明であった。そこで本年度はマウス腸上皮をモデルとして、ipvivoでのparafibrominによるシグナル制御機構を解析した。結果、腸上皮組織の染色実験から、parafibromin, Notchシグナル, Wntシグナルが腸上皮幹細胞の維持に協調的にはたらいていることが示唆された。また、前項のマウス実験に加え、組織レベルでのparafibrominクロストークの役割を検討するために、腸管上皮幹細胞培養法(Sato et al., Nature, 2009)を用いて腸管上皮のシグナル制御にparafibrominが果たす役割を検討した。結果、腸管上皮幹細胞培養法の確立に成功し、parafibrominが腸上皮幹細胞の維持に必須であることを明らかにした。これらの知見は、parafibrominが生体内での各種シグナルの統合的制御を司っていることを示すものであり、シグナル異常が関与する疾患の予防や治療法の確立に貢献しうるものである。
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