研究課題/領域番号 |
12J04197
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
越智 雄磨 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | コンテンポラリーダンス / ノン・ダンス / グザヴィエ・ル・ロワ / 関係性の美学 / ジェローム・ベル / ニコラ・ブリオー / 劇場 / 遠近法 |
研究概要 |
今年度は主に、研究指導委託先であるパリ第八大学ジュリー・ペラン准教授の指導の下、90年代以降のフランスのコンテンポラリーダンスの転換において、重要な振付家とされるグザヴィエ・ル・ロワ(Xavier Le Roy)についてその作品の特殊性やフランスのダンス界における意義を明らかにすることを目的として研究を推進した。また、この研究目的を達成するために、グザヴィエ・ル・ロワ本人に1997年から現在までの作品映像資料の寄贈を依頼、入手し、雑誌、新聞記事等の資料をフランス国立ダンスセンターで収集し分析することとした。研究実施計画とやや内容が異なるのはペラン准教授の指導による。 ル・ロワの作品を時系列に分析した結果、彼の初期作品『ナルシスフリップ』(1997)等においては、劇場構造に由来する遠近法や正面性に依拠した「身体の視覚的イメージの創造(視覚性)」に特徴がみられることを発見した。他方『low pieces』(2011)等近年の作品においては、そのような劇場構造の特殊性に必ずしも依らない「観客との関係の構築(関係性)」に重点が置かれていることを発見した。そのため「視覚性」から「関係性」という特徴の推移をより明確にし、分析するための理論的パースペクティヴを構築することに専心した。その上で理論的参照項として重要だと思われるニコラ・ブリオーの『関係性の美学』に着目した。それは90年代以降の現代芸術を議論するための最も有効な枠組みの一つと言われており、それに対する批判を含めたテクストは芸術を媒介とした関係性、共同体の形成を考える上で示唆に富む。その知見は、ジェローム・ベル、グザヴィエ・ル・ロワなどに代表される「ノン・ダンス」と呼ばれた90年代以降のコンテンポラリーダンスの傾向を考察する上でも適用可能であると考えられる。こうした観点からの研究はこれまでにほとんどなく「ノン・ダンス」に対する新しい評価、定義を提示しうるという点において意義深いものだと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「8月20日の署名者たち」の概要については、パリ第八大学教授であるイザベル・ロネに聞き取り調査を行うことで、「公的機関によるアートプロシェクトの評価」についてなど、どのような問題意識を持っていたか、どのような活動を行っていたかを明らかにすることができた。また、ノン・ダンスの振付家と呼ばれたグザヴィエ・ル・ロワの研究上必要となる映像資料を入手したほか、国立ダンスセンターにおいてル・ロワのインタビュー、作品評など言説分析に必要な資料も収集することができた。また研究指導委託者であるジュリー・ペラン准教授の指導の下、『関係性の美学』にまつわる議論を調査、考察することにより、その作品の美学的意義や歴史的位置づけを明確にするための理論的枠組みを整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究指導委託者であるジュリー・ペラン准教授により、優先的に行うべきことは振付家の個別の作品についての分析であるという指導を受けたため、フランス政府による文化政策やダンサー達の政治意識及び政治的活動に関する調査というよりは、作品分析や美学的研究に力点が置かれることになった。とりわけ、ル・ロワに関する研究に重点が置かれたのは、ペラン准教授がフランスにおいてル・ロワ研究の先駆者であるという理由による。次年度以降は、ル・ロワが雑誌等で発表してきた意見表明やインタビュー記事等と作品を照らし合わせつつ、その美学的、政治的意義を明らかにしていく方策をとることで、当初の研究目的に沿った研究を行う予定である。
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