研究課題/領域番号 |
12J04215
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 直希 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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キーワード | 相対論的輸送理論 / クォーク物質 / ベリー位相 / カイラルプラズマ不安定性 |
研究概要 |
量子電磁気学(QED)や量子色力学(QCD)では、右巻きと左巻きのカイラルフェルミオンの粒子数の差が電磁場中では量子効果のために保存せず、量子異常と呼ばれる。しかし、相対論的電子プラズマやクォーク物質の非平衡過程を記述する相対論的輸送理論では、量子異常の効果がこれまで見落とされていた。 我々は物性系で知られたベリー位相とベリー曲率の効果を取り入れることで、輸送理論の枠内で量子異常を正しく再現するだけでなく、左右のカイラルフェルミオンの数に差があれば、外部磁場によって電流が流れるというカイラル磁気効果も記述できることを明らかにした。さらに、この新しい輸送理論は、場の理論から出発して、適切に系統的な微分展開をすることによって得られることも示した。 近年、相対論的重イオン衝突実験において、非中心衝突で1018ガウスもの強大な磁場が作られることが理論的に示唆され、カイラル磁気効果が実験的に観測できる可能性が議論されている。我々はベリー曲率の効果を取り入れたブラソフ方程式を線形解析で解くことによって、左右のカイラルフェルミオンの数に差がある場合は、それを減らす方向に働くプラズマ不安定性があることを明らかにし、カイラルプラズマ不安定性と名付けた。これは、カイラル磁気効果は安定に存在しないことを意味する。この新しい輸送方程式によって、クォーク物質だけでなく、ニュートリノ気体等の時間発展を量子異常の効果を取り入れて記述することが可能になり、その将来的な応用が期待される。 これらの研究とは独立に、有限密度QCDの負符号問題を回避するphase-quenching法が、QCDの相図のある領域では平均場近似で厳密となることを示した。さらに、高密度QCDにおけるディラック演算子の固有値と超流動ギャップを結びつける新しい関係式を導出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究目的であった量子異常の効果を含む新しい輸送理論(トポロジカルな輸送理論)を構成するだけでなく、その応用として、クォーク物質等の相対論的プラズマに特有の新しいプラズマ不安定性(カイラルプラズマ不安定性)を見出すことが出来たため。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの研究で明らかになったカイラルプラズマ不安定性が、線形解析を超えてどのように時間発展し飽和していくかを数値計算等によって明らかにする。このプラズマ不安定性は、相対論的重イオン衝突実験で生成されるクォーク物質、初期宇宙の電弱プラズマ、中性子星内部の電子プラズマ等で発現する可能性があり、その現象論的な帰結を検討する。さらに、このプラズマ不安定性は、我々が構成した相対論的ポルツマン方程式だけでなく、従来考えられていなかったランジュバン型の理論によっても記述できると考えており、そのような理論の構築と応用も視野に入れている。
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