昨年度に構築したベリー位相やベリー曲率の効果を取り入れたトポロジカルな輸送理論に基づき、非可換ゲージ理論の高温・高密度プラズマの時間発展を記述する低エネルギー有効理論を構築した。これは、量子異常と散逸の効果を系統的に含む新しいタイプのランジュバン方程式(カイラルランジュバン方程式)であり、従来の理論に比べ、右巻きと左巻きの粒子を区別して時間発展を記述することができるという重要な利点を持つ。また、この理論は、昨年度に我々が見出した右巻きと左巻きの粒子数のアンバランスのよって生じる「カイラルプラズマ不安定性」を古典的な運動方程式によって記述することができる。このようなプラズマ不安定性は初期宇宙における電弱プラズマや相対論的重イオン衝突実験で生成されるクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)等で現象論的に重要になり得るにもかかわらず、これまでに考えられていた輸送理論では、右巻きと左巻き粒子の区別ができないために見落とされていた。我々のこの新たな有効理論によって、これらの系のダイナミクスが初めて定性的に正しく記述できると期待される。 また凝縮系物理においても、近年ワイル半金属と呼ばれる3次元相対論的フェルミオンが低エネルギーで創発的に現れる物質が提案されている。このような系にトポロジカルな輸送理論を応用することで、新しいタイプの輸送現象が現れることを明らかにした。 さらに、これらの研究とは独立に、高温強磁場におけるQCD物質に新しい臨界点が存在する可能性を模型に依らない一般的な議論によって示した。
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