経済成長に大きな影響を与える人的資本は、主に学校教育と企業訓練によって蓄積される。ここで教育と訓練について二点、重要な特徴を挙げることができる。一点目は補完性を持つ点である。既存の研究が示すように、高い教育水準の労働者は高い水準の訓練を受けていることがデータから分かっている。二点目は動学的な側面を持つ点である。つまり労働者は労働市場に入る前に教育に投資をし、労働者と企業が出会った後、企業が労働者を訓練するという時間構造が存在するのである。この二つの特徴は、他の経済学者もその重要性を指摘している。以上のことから、教育と訓練について理論的に考える際には補完性と動学的側面を考慮すべきであると言える。 これらを踏まえると、労働サーチ理論は基本モデルとして適切であることが分かる。労働サーチ理論の文献上、投資が社会的に望ましい水準よりも過小になることが知られている。しかし既存文献は教育と訓練を同時には考察しておらず、補完性と動学的側面が投資水準にどう影響を及ぼすのかについて考えられていない。教育と訓練を同時に考察するに当たっても、それらが社会的に望ましい水準よりも過小になることが予想されるため、政府の補助が必要とされる。よって、この研究では、政府がどのように教育と訓練を補助すれば、社会的に望ましい水準が実現されるかを考察した。 本研究の意義としては、初めて労働者の「実質的」交渉力の概念を提唱した。さらに、教育補助は労働市場の流動性に依存させるべきである一方、訓練補助は流動性に依存させるべきではないということを示した初の研究でもある。
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