研究課題/領域番号 |
12J04257
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平塚 徹 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ライブイメージング / 皮膚癌 / FRET |
研究概要 |
1.ERKのバイオセンサーを発現するトランスジェニックマウス(Raichu-TGマウス)への発癌誘導 本研究では、DMBA(ジメチルベンヅアントラセン)およびTPA(12-O-テトラデカノイルフォルボール13アセテート)による二段階モデルを使用した。皮膚癌誘導をもっとも効率的にするために、Raichu-TGマウスをFVBマウスと繰り返し交配し、バックグラウンドをFVBとした。その結果、DMBA/TPAの反復塗付による発癌効率は大幅に上昇した。 2.DMBA単独あるいはTPAによるERK活性の変化 DMBA,TPAのそれぞれが一過性に誘導するERKの活性化レベルを検討した。その結果、DMBAはほとんどERKの活性に影響を与えないが、TPA塗付はERKの活性化を引き起こし、そのピークは塗付後およそ6時間後にみられ、その効果はおよそ3日間持続することがわかった。これまで、TPA塗付は、経験則により週に2回行うこととされてきたが、本実験結果は、それを分子レベルから裏付けるものではないかと考えられる。すなわち、TPAの反復塗付によりERKの活性を常に高く保ち続けることが発癌過程に重要であることを示唆している。 3.Raichu-TGマウスにおける、腫瘍初期病変の検出 DMBA/TPAによる発癌の初期病変をERKの活性により検出するために、ERKの活性を検出できるRaichu-TGマウスにDMBA/TPAを塗布し、週に一度、同じマウスの耳の皮膚を連続的に観察し続けた。その結果、DMBAを塗付後およそ30日後にERKの活性が非常に高い細胞群(ERKhigh cell cluster)が現れることを見出した。これらの細胞のERK活性は、TPA塗付による一過性の活性化よりもはるかに高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は2つの点で非常に困難と予想された。ひとつには、この実験が極めて独創的であるがゆえに、実験手法等からすべて自ら確立する必要があったということである。また、もうひとつは、腫瘍発生は本来、非常にまれな現象であり、それを顕微鏡レベルで見つけ出すという困難である。しかし、該研究者は独自のイメージング技術を確立して、前者の困難を乗り越えている。さらに後者に関しても、すでにERK活性が非常に高い細胞を発見している。本プロジェクトは、細胞分裂や免疫細胞系の動きなど、当初予想していなかった現象さえもとらえており、当初の計画以上に多くの情報をもたらしているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
該研究者は、発癌剤の塗付により、皮膚にERKの活性が極めて高い細胞が現れることを検出している。今後、生きたままの個体で細胞を観察できるという、本研究の長所を生かして研究を継続していく予定である。具体的は、その細胞がいつ生じるのか、どの程度の頻度で生じるのか、その細胞は排除されていくのか、それとも生存して腫瘍化するのか、などが考えられる。そのためには、皮膚の同一領域を違う日に同定する技術が必要になると考えられる。該研究者は、真皮皮膚のコラーゲンの自家蛍光を検出し、その配列を手掛かりにして解決できないか模索中である。
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