研究概要 |
金属のアブレーション(表面から物質が爆発的に放出する現象)が起こるレーザーフルーエンス(単位面積当たりのエネルギー)でフェムト秒レーザーを照射すると,入射レーザー光の波長λよりも短い周期A(試料への垂直入射の場合でA=0.5~0.85λ程度)の縞状の溝構造が,レーザー光の偏光と垂直方向に自己組織的に形成される.金属におけるナノ周期構造の周期は入射レーザーのフルーエンス,波長,入射パルス数によって変化するという特徴をもっている.現在,ナノ周期構造の形成機構の解釈として入射波と表面プラズマ波との干渉,およびパラメトリック崩壊による表面プラズマ波の発生が提案されている.一方,フェムト秒レーザーをアブレーション閾値フルーエンス(以下単にアブレーション閾値と呼ぶ)よりも低いフルーエンスにおいて金属に照射した場合でも,縞状のナノ構造が形成されることが報告されている.縞の間隔は入射レーザー波長の113程度であり,上記のナノ周期構造とは異なる機構で形成されていると考えるのが妥当であるがその形成機構は未だに解明されていない.本研究では,アブレーション閾値以下で生じる金属表面のナノ構造の形成機構解明を目的とした.4種の金属(Cu,Pt,W,Mo)表面における入射パルス数増加に伴う構造の変化を高空間分解能のSEMで観察し,形成機構を電磁界分布シミュレーションによって考察した.入射レーザーの偏光に対して垂直方向を向いたクラックの形成が確認された.クラックの数密度は入射パルス数の増加に伴い増加した.クラックは,金属表面に存在するナノサイズの穴近傍の局所的な電場増強により,穴が成長したものであることが示唆された.今回提案した機構は,アブレーション閾値以上のフルーエンスにおける周期構造形成機構異なるものであり,フェムト秒レーザーと物質との相互作用に関して新たな知見を与えるものと考える.
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