研究課題/領域番号 |
12J04291
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
榎本 将人 神戸大学, 大学院・医学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | JNKシグナル / Rasシグナル / Hippo経路 / 腫瘍形成悪性化機構 |
研究概要 |
本年度は、ショウジョウバエ上皮組織に誘導したがん遺伝子Srcを発現する細胞群がJNKの活性化を引き起こすことを見出し、この活性化JNKシグナル経路は、腫瘍抑制経路であるHippo経路の標的分子Yorkie(Yki)の活性を抑制しつつ、同時にYki活性を周辺細胞に伝播することで周辺細胞の過剰な増殖を引き起こしていることを明らかにした(EMBo reports, 2013)。また、JNKシグナルによるYkiの抑制機構を解析した結果、JNKジグナルは、Hippo経路の構成分子であるWarts(Wts)を介してYkiを抑制していることを明らかにした。これらの結果から、がん原性変異を生じた細胞内において、JNKシグナルはWtsを介してYki活性を抑制することで腫瘍形成・促進を負に制御していることが明らかになった(論文投稿準備中)。一方で、JNKシグナルとRasシグナルの協調的な腫瘍形成・悪性化機構を解析した結果、JNKシグナルとRasの下流シグナルであるRaf-MAPKシグナルが協調して過剰なアクチンフィラメント(Factin)の集積を引き起こすことがわかった。そして、この異常集積したF-actinがJNKによるWtsの活性化を解除して、Ykiの活性化を誘導することを明らかにした。また、F-actinによるYkiの活性化にはミオシンファミリー分子が重要であることを見出している。このことから、Rasシグナルが活性化していない細胞内環境では、JNKシグナルはWtsを介してYkiを抑制する"増殖抑制シグナル"として機能し、一方でRasシグナルが活性化している細胞内環境では、JNKシグナルはRas-MAPKシグナルと協調し、F-actinの集積を介してYkiを活性化する"増殖促進シグナル"に変換されることが明らかになった(論文投稿準備中)。これらの研究成果は、多細胞生物において数多く報告されているJNKシグナル依存的な細胞増殖および細胞死のスイッチ機構やJNKシグナルによる腫瘍形成・悪性化機構を生体レベルで明らかにしている点で極めて重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
すでにJNKシグナルがHippo経路の活性を介して腫瘍形成を正負に制御している分子機構を明らかにしていることから、研究目的である腫瘍形成・悪性化を制御するJNKのシグナルスイッチ機構については、その全容が明らかになりつつある。一方で、今年度の研究によりがん遺伝子Srcの発現が上昇している細胞内においては、JNKシグナルの細胞非自律的な腫瘍形成機構の存在が明らかになり、JNKシグナルの腫瘍形成機構に対する新たな展開が期待されることから当初の計画以上に順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、JNKが直接的な相互作用によりWtsを活性化しているかを解析するため、JNKおよびWtsタンパク質を精製し、リン酸化assayを行い、WtsがJNKによるリン酸化によって活性化するかを精製SCIを基質にして用いて解析すると共に遺伝学的にJNKシグナルの下流分子の遺伝子変異により間接的なWts活性化機構についても検討する。また、JNKとRas-MAPKシグナルの協調的な腫瘍悪性化機構を明ら、かにするため、JNKとRas-MAPKシグナルによるF-actinの集積機構やYkiにより誘導される遺伝子群またはYkiの結合因子とJNKシグナルおよびRasシグナルとのクロストークについて遺伝学的または生化学的に解析する。
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