研究課題/領域番号 |
12J04300
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 南美 京都大学, 霊長類研究所, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 霊長類 / 苦味受容体 |
研究概要 |
霊長類の採食行動は進化の過程において、多様に変化してきたが、それに伴う遺伝的な背景はほとんど明らかになっていない。本研究では採食行動に深くかかわる味覚受容体遺伝子に着目し、その種内差、種間差を比較する二つの手法を用いて、適応的な進化機構の遺伝的背景の解明を目指している。 一つ目の研究では、ニホンザルの紀伊集団で地域特異的に生じた苦味受容体遺伝子TAS2R38の機能変異の進化的背景を探った。まず紀伊集団ニホンザル40個体のTAS2R38遺伝子周辺領域(約10kbp)の配列を解読した。ニホンザル集団間の遺伝的交流を把握するために、紀伊集団とその近隣7集団の計8集団64個体について、非コード領域9座位の配列を解読した。また、コンピューターシミュレーションを用いた解析を行うことにより、TAS2R38の機能変異の中立性を検討した。すべての解析結果から、TAS2R38感受性変異型は比較的最近に紀伊集団に生じ、その後、遺伝子変異が引き起こした苦味感受性差に対して正の自然選択が働いたことによって、短期間に急速にこのアレルが集団中に拡がったことが示唆された。 二つ目の研究では、霊長類の中でも葉食という特徴的な採食形態をもつ葉食ザル(ラングール)に着目して、苦味受容体遺伝子と適応的な採食行動との関係の解明を目的としている。近縁なアカゲザルでは26種類の苦味受容体を持つことが知られているため、アカゲザルのゲノム配列を参考にプライマーを作成し、遺伝子領域の解析を行った。その結果、解析に成功した15種類の苦味受容体遺伝子のうち14種類の苦味受容体遺伝子は機能的であると推測された。まだ予備的な結果ではあるが、葉食ザルでも苦味受容体レパートリーが保存されており苦味感覚を用いて食べられる植物を選択していることが推測された。 二つの研究結果から、霊長類において苦味受容体遺伝子は採食特徴に応じて柔軟に適応的に進化していることが示唆された。これは霊長類の進化過程を考えるうえで非常に興味深い結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
二年間の研究計画は計画以上に進展している。具体的には、一つ目の研究としてあげたニホンザルの苦味受容体遺伝子の進化的研究においては、当初計画していた実験は順調に進み、さらには、解析するうえで必要になった、進化的に中立的な領域である非コード領域9座位について64個体で配列を解読した。また、実際の進化過程のシミュレーションを行い、より具体的かつ多角的に解析が進行した。二つめの研究内容である葉食ザルの苦味受容体配列レパートリー解析も順調に解析が進んでおり、葉食ザルの苦味受容体は保存的であるという予備的な結果が得られた。以上のことから、研究計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
一つ目の研究では、受容体機能解析、遺伝子領域・非コード領域の配列解析およびコンピューターシミュレーション解析のすべての結果がそろったため、これらすべてをまとめてニホンザルの苦味受容体の進化について多角的にとらえた論文を現在執筆中であり、夏に投稿予定である。また夏に開催される進化学会で発表予定であり、研究成果を発信していく。二つ目の研究では本年度に得られた実験結果をもとに引き続き研究を進めていき、より進化的・機能的な側面から苦味受容体の適応的機構の解明をめざしていく。年度の後半にはそれらをまとめた論文を作成予定である。
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