研究課題/領域番号 |
12J04309
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
今田 省吾 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | 窒素循環 / 窒素利用 / 侵入樹種 / 乾燥地 |
研究概要 |
アメリカ合衆国西部乾燥地域の河川流域における侵入樹種Tamarix ramosissimaの窒素利用の解明を目的として、Tamarix林内の土壌の窒素循環および林分の窒素利用に関する調査研究を進めている。今年度は、土壌の窒素循環に関する調査として、ネバダ州バージン川下流域のTamarix林内と林外(自生灌木が優占する植生)に調査区を設置し、土壌の微生物呼吸量、無機態窒素濃度、窒素無機化速度、及び硝化速度を測定した。土壌試料の採取は調査対象種の成長の旺盛な夏と落葉期にあたる冬に実施した。その結果、土壌の無機態窒素濃度にTamarix林内と林外で有意な差は認められなかったものの、林内の土壌微生物呼吸量および硝化速度は林外と比べて有意に高い結果が得られた。次に、土壌試料からDNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりアンモニア酸化細菌および古細菌の定量分析を行った結果、Tamarix林内では細菌量が古細菌量よりも多いこと、林内では林外よりも細菌量が多いことが明らかとなった。これらの結果は、Tamarix林が形成されることにより、窒素循環を担う細菌が増加し、その結果アンモニア態窒素の硝化が促進されることを示唆している。また、林分の窒素利用に関わる調査として、調査林に川からの距離(土壌水分、塩分、及び養分条件)の異なる調査区を設定し、各調査区でTamarix個体の成長特性および土壌の環境要因を測定した。その結果、葉の窒素濃度が高いほど個体サイズが大きいこと、葉の窒素濃度と土壌の硝酸態窒素濃度との間に正の相関関係がみられることが明らかとなった。これらの結果は、土壌表層の水分条件よりも、窒素の利用可能性がTamaTixの成長に影響を及ぼす可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌の窒素循環調査に関しては、本年度に予定していたTamarix林土壌の窒素無機化速度および硝化速度の調査に加え、土壌の窒素循環を担う微生物の機能解明に関わる分子生物学的実験に新たに取りくんだ。林の窒素利用調査に関しては、当初の計画から若干の遅れがあるものの、調査区の設定や基礎的情報の収集を行った。全体的には、おおむね順調に研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度も海外調査を継続し、Tamarix林土壌の窒素循環および林の窒素利用に関するデータ収集を行う。現在、本研究課題の調査林にいおいてタマリスクハムシが発生し、ハムシの食害により調査林全域でTamarixの早期落葉が引き起こされている。ハムシ食害による落葉現象は今後も繰り返されると予測されるため、調査林内にリタートラップを設置して季節的に落葉を採取するなどして、ハムシによる落葉がTamarixの窒素利用に与える影響を把握する。
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