研究概要 |
本研究の目的は触覚による運動感覚の増強,錯誤および制御の実現である.本年度は自己運動に伴った触覚呈示手法として,減衰正弦振動を用いた叩き動作に対する実物体への材質感重畳手法およびロータリスイッチ的カチカチ感呈示手法の研究を行った.前者では,ユーザが物体を叩く動作に合わせて振動を呈示することで,叩いた物体の材質感を変えるというものである.これにより,例えば柔らかいものを硬くするといった擬似的な反力増強が可能となる.また後者ではモーションキャプチャ装置と振動呈示によってユーザの肘屈伸運動に合わせて離散的な触覚フィードバックを行うシステムの開発を行った.振動刺激のパラメータを調整することで肘関節の材質感を,例えばゴムやアルミニウムに変えられることを明らかにした.更にそれに伴い,疑似的な反力が生じるといった現象も発見した.これらの疑似力覚は運動感覚の増強として利用できると考えられる. また本年度は触覚に限らない感覚呈示手法として,徳利の「トクトク感」のモデル化および再現,歯磨き音の変調による歯磨き感拡張の研究を行った.前者は徳利で液体を注いだときに生じる振動「トクトク感」をモデル化および再現するものである.本研究の最終的な目標は,実際の液体の質感を変調することで,液体の印象(風味等)を変えることである.後者は歯磨き時に生じる音を変調することで歯磨きの印象を変化させるものである.これまでに被験者実験より,強調する周波数によって歯磨きの印象が変化することを明らかにした.これら二つの研究は現段階では本課題の目的である運動感覚増強と少しかけ離れているように見えるかも知れない.しかし最終的には対象の質感を変えることによって,ユーザの対象への接し方,つまり身体運動をユーザの無意識のうちに制御できるのではという考えのもと行われている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
運動感覚の増強,錯誤および制御に関する手法を数多く構築し,その初期段階といえる触刺激による疑似力覚生起の可能性を示唆した点で進捗は順調であるといえる.さらに触覚に限らない,例えば聴覚呈示といった新たなアプローチによる運動感覚の制御の提案,検討をしたという点において当初の計画以上の進展をしていると評価できる.
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