研究課題/領域番号 |
12J04356
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂部 綾香 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | メタン / 森林 / 温暖化 / 北方林 / ガス交換 / 気象 |
研究概要 |
メタンは二酸化炭素に次ぐ温室効果ガスであるにも関わらず、森林におけるメタンの動態はあまり明らかになっていない。メタンは好気的土壌で酸化されることから、大部分が乾いた土壌からなる森林はメタンの吸収源であると認識されてきた。しかし、アジアモンスーンの森林には、大きなメタンの放出源である湿地が林内に散在するし、永久凍土上に生育する北方林は、凍土以下に水が浸透しないことから、空間不均一に嫌気的土壌が形成されやすい。地球温暖化に果たす森林の役割を明らかにするためには、森林ではメタンの吸収と放出の両方が起こっていることを考慮して群落スケールでメタン収支を評価することが重要である。 本研究では、観測により森林におけるメタン動態を明らかにすることを目的として、アジアモンスーンの一般的な森林である桐生水文試験地(滋賀県)、永久凍土上に生育する北方林であるアラスカ試験地(アラスカ中央部)において、簡易渦集積法による群落スケールのメタン収支、土壌チャンバー法による土壌でのメタン吸収・放出速度、プロファイル法による林内のメタン濃度の鉛直勾配を連続観測するシステムを立ち上げた。 桐生水文試験地では、土壌チャンバー法による観測から、林内の湿地では、林床でのメタン吸収速度を数オーダー上回るメタン放出があることが明らかになった。それらのメタン吸収と放出の両者の兼ね合いによって、群落スケールのメタン収支は放出と吸収が移り変わる季節変化を示すことが明らかになった。また、降雨後、群落スケールのメタン放出が増加する様子を捉えることができた。アラスカ試験地では、メタンの吸収も放出もごく小さく、群落スケールではわずかなメタンの放出源となることが明らかになった。そして、永久凍土が融解し、植物による蒸発散が減少する成長期後半に、土壌水分が増加することによって、メタン放出が増大することが明らかになった。 簡易渦集積法がメタンの観測に用いられた例は非常に少ないので、本研究では他の手法との比較観測によって簡易渦集積法をメタンに適用する際の妥当性について検討を行った。アラスカ試験地において、簡易渦集積法と併せて渦相関法によるメタン収支の観測を行い、両者の比較を行った。また、大きなメタン放出が予想される水田において、簡易渦集積法、渦相関法、傾度法による群落スケールのメタン収支の同時観測を行い、手法間の比較による簡易渦集積法の確立を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の主な研究計画は、桐生水文試験地とアラスカ試験地において、簡易渦集積法、土壌チャンバー法、プロファイル法によるメタン動態観測システムを立ち上げることであった。これらの観測システムを立ち上げ、連続データを取得できているので、概ね計画通りに進展していると判断した。簡易渦集積法の測定精度向上のためのプログラムの改良を行う予定であったが、これは平成25年度に行う予定である。また、水田における群落スケールのメタン収支観測の手法間比較は、当初の計画になかったが、実行することができたので、計画以上に進んでいる点である。
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今後の研究の推進方策 |
桐生水文試験地、アラスカ試験地におけるメタン動態の観測を継続する。取得されたデータを解析し、順次論文を作成する予定である。
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