研究概要 |
うつ病患者へのselective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)適応は心疾患合併リスクを減少させるという臨床試験報告は多い。しかし、SSRIによる心機能改善効果のメカニズムについては明らかにされていない。私達はSSRIであるfluvoxamineが高親和性sigma-1受容体アゴニストであることに着目し、心筋保護作用を示すことを明らかとした(Tagashira et al.,Am J Physiol Heart Circ Physiol・,2010.)。しかしながら、心筋保護作用を示す詳細なメカニズムは不明である。本研究では次の課題について追究する。1.Sigma-1受容体アゴニストによるsigma-1受容休のアップレギュレーションのメカニズムの解明、2.Sigma-1受容体の病態生理学的役割の解明、3.Sigma-1受容体アゴニストの心不全進展予防薬としての有用性の検討し、本年度は2と3に関して次に結果を得た。Sigma-1受容体選択的アゴニストであるSA4503は、アンギオテンシンII(AngII)による培養心筋細胞肥大、およびマウス胸部大動脈狭窄による病的心肥大・心機能障害に対して保護作用を示すことを明らかにした。Sigma-1受容体は、内因性リガンドが不明なオーファン受容体であるが、非心筋細胞においてmitochondria-associated ER membrane(MAM)に多く発現し、一部はIP_3受容体と結合し細胞内Ca^<2+>濃度の恒常性維持に関与すると考えられている。そこで、SA4503が、ER-mitochondriaの近接部位の増加およびIP_3受容体を介したミトコンドリアへのカルシウム輸送を促進し、ATP産生を増加させ、心不全進展予防作用を示すことを明らかにした(Tagashira et al.,Biochim Biophys Acta.,2013.)。これらの成果は、心筋におけるsigma-1受容体の生理学的役割を示したと同時に、新たな心筋保護薬開発の創薬ターゲットとしての可能性を示唆する重要な知見である。さらに、sigma-1受容体の病態生理学的役割の解析を行うため、sigma-1受容体過剰発現系も確立した。今後はSA4503によるミトコンドリアへのカルシウム輸送の詳細なメカニズムについて検討する。
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