研究概要 |
うつ病患者へのselective serotonin reuptake inhibitor (SSRI)適応は心疾患合併リスクを減少させるという臨床試験報告は多い。しかし、SSRIによる心機能改善効果のメカニズムについては明らかにされていない。私達はSSRIであるfluvoxamineが高親和性sigma-1受容体アゴニストであることに着目し、心筋保護作用を示すことを明らかとした(Tagashiraetal., Am J Physiol Heart Circ Physiol., 2010.)。しかしながら、心筋保護作用を示す詳細なメカニズムは不明である。そこで、我々はsigma-1受容体の病態生理学的役割の解明を明らかにすることを中心にこの一年間検討を行った。SSRIであり、sigma-1受容体アゴニストであるfluvoxamineが、心筋のsigma-1受容体に直接作用し、アンギオテンシンII (AngII)による培養心筋細胞肥大および心筋細胞死に対して保護作用を示すことを明らかにした。Sigma-1受容体は、内因性リガンドが不明なオーファン受容体であるが、非心筋細胞においてmitochondria-associated ER membrane (MAM)に多く発現し、一部はIP_3受容体と結合し細胞内Ca^<2+>濃度の恒常性維持に関与すると考えられている。そこで、fluvoxamineが、ER-nitochondriaの近接部位の増加およびIP_3受容体を介したミトコンドリアへのカルシウム輸送を促進し、ATP産生を増加させ、心不全進展予防作用を示すことを明らかにした(Tagashira et al., Life Sci., 2014.)。さらに、免疫染色法によりinvivo心筋におけるsigma-1受容体の局在について検討した結果、イオンチャネルが豊富に存在するT官近傍の筋小胞体に多く発現していることを明らかにし、sigma-1受容体は筋小胞体においてIP_3Rと複合体を形成し、小胞体からミトコンドリアへのカルシウム輸送を促進するのみならず、RyRと複合体を形成し、筋小胞体からの異常なCa^<2+>漏出を抑制することを明らかとした(Tagashira et al., Am J Physiol Heart Circ Physiol, 2013.)。これらの成果は、心筋におけるsigma-1受容体の生理学的役割を示したと同時に、新たな心筋保護薬開発の創薬ターゲットとしての可能性を示唆する重要な知見である。
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