研究課題/領域番号 |
12J04366
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
日向 伸介 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | タイ / 近代国家形成 / 王権 / ナショナリズム / バンコク国立博物館 / 美術史 / ダムロン親王 / ワチラヤーン親王 |
研究概要 |
平成24年度の主要な成果として、東南アジア学会の学会誌『東南アジア:歴史と文化』に掲載された論文「ラーマ7世王治世期のバンコク国立博物館に関する一考察:ダムロン親王の役割に着目して」があげられる。本論文では、ダムロン親王がバンコク国立博物館を利用して、タイ民族の文化的アイデンティティを構築するとともに、王制の正統性を擁護したことを、これまで引用されることのなかった豊富な一次史料に基づいて明らかにした。 次に、2012年11月に台湾で開催された国際学会に際して英語論文「Monarchy and National Culture : The Founding of the National Museums of Japan and Thailand」を執筆・公表し、口頭発表をおこなった。君主制と国民文化の関係をタイと日本の博物館史に即して考察した結果、近代化の過程における政教関係、すなわち国家と宗教の結びつきが、文化遺産のもつ社会的性格や公共性に大きな影響を与えている可能性を明らかにした。非欧米諸国における文化遺産の成立を政教関係からとらえ直すというこの試みは、文化史の分野における本研究の独自性に大きく寄与するものである。同様の視点から、2012年9月には国内研究会で口頭発表をおこない、タイにおける美術史は、「美術」そのものを取り扱うというよりも、むしろ仏教史叙述の一部として叙述されたものであることを、ダムロン親王の著作『シャム仏塔史』に即して部分的にではあるが明らかにした。 以上の点をふまえ、2013年5月に開催される東南アジア学会での口頭発表が決定している。平成24年度はその準備と論文執筆のために、一か月に満たない史料収集をタイ国内の公文書館・図書館で2回(2012/11/7~31、2013/2/2~3/3)にわたりおこなった。タイにおける仏教サンガ組織確立の立役者として知られるワチラヤーン親王が国王に提言した王立寺院制度の草案、関連文書、および現在刊行されている著作の複製を網羅的に収集したことが最大の成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、申請書における当初の計画として、(1)博物館コレクションの形成に関する研究、(2)タイ美術史の形成に関する研究、(3)バンコク国立博物館の公共性に関する研究、という三点の具体的な課題を設定した。平成24年度は、(1)・(2)に関する論文が学会誌に掲載されたほか、(3)についても史料収集と口頭発表をおこなった。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、6月に開催される東南アジア学会での発表(決定済)でのコメントを受けて、タイ美術とナショナル・アイデンティティの形成に関する論文を執筆し、国内の学術誌に投稿する。また、9月にタイのチャンマイ大学で開催される学会では、バンコク国立博物館においてダムロン親王が果たした役割に関する研究発表をおこなう予定なので、そのために準備したペーパーをタイ国内の学術誌等に投稿する。 海外調査としては、当初の研究計画通り、上座部仏教圏における文化財行政の比較をおこなうために、カンボジアおよびスリランカの国立博物館で調査をおこなう予定である。
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