研究課題/領域番号 |
12J04372
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
伊藤 桂介 東北大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 電子誘電体 / 光誘起相転移 / テラヘルツ時間領域分光 / ポンププローブ分光 / BEDT-TTF / LuFe_2O_4 |
研究概要 |
本年度は、広帯域テラヘルツ(THz)光源(~10THz)を用いた、THz定常分光および中~近赤外励起-THzプローブ分光(過渡分光)を使用し、電子誘電体物質(有機物;κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3、酸化物;LuFe_2O_4)における光誘起相転移を実現した。 前者κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3に関しては、これまで見出した光による分極クラスターの成長に関して詳細な温度依存性・偏光依存性を測定し、国際学会およびPhys.Rev.Lett.誌で発表した。さらに、比較物質として β'-(ET)_2ICl_2のTHz分光を行い、κ-(ET)_2Cu_2(CN)_3と同様に、分極クラスターを反映する素励起が~1THzに存在することを見出した。さらに、電場印加THz分光を行うことで、この素励起が電場により増大することを明らかにした。この結果は、外部電場の印加により生じる分極領域の成長を分光学的に捉えたものであり、光誘起強誘電相転移に向けた重要な知見である。 また層状鉄酸化物LuFe_2O_4では、光励起-THzプローブ分光の結果から、この物質における光誘起磁気相転移を初めて発見した。さらにこの相転移が光の偏光に敏感であり、面間偏光の光励起ではフェリ磁性-反強磁性転移、面内偏光の光励起ではフェリ磁性の成長が起きていることを明らかにした。従来の光誘起相転移が電荷秩序や磁気秩序の融解であったのに対し、この結果は、反強磁性とフェリ磁性という秩序状態を光により自由自在にコントロールできることを意味しており、非常に重要な意味を持っている。さらにそのダイナミクスから、光励起直後には電荷秩序と磁気秩序が強く結びついているものの、数ps後に、それぞれの自由度が分離していることを明らかにした。このことは、光誘起相転移のみならず、層状鉄酸化物における電荷・磁気秩序の成り立ちを明らかにするうえで重要な情報であり、現在10-100fs領域での詳細なダイナミクス、また温度依存性について研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の進展、外部発表の双方にて、当初目的以上の成果が得られた。まず前者に関しては、有機伝導体における分極クラスターの素励起が、当初想定していた特定の物質に留まらず、普遍的に存在する可能性を見出した。 また酸化物において、従来とは全く異なる光誘起相転移を発見することが出来た。外部発表に関しても、国際会議および著名な論文誌(Phys.RevLett)へと掲載され、また一般の新聞(河北新報など)にも掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
有機伝導体β'-(ET)_2ICI_2およびκ-(ET)_2Cu_2(CN)_3において、高強度テラヘルツ光によって分極クラスターの素励起を共鳴的に励振し、光誘起強誘電相転移を目指す。装置開発は順調に進展しており、層状鉄酸化物LuFe_2O_4においてもテラヘルツ励起測定が可能となる見込みである。
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