研究課題
本年度は、申請者が前年度見出した電子誘電体における新たな光誘起相転移現象について、そのダイナミクスやバックグラウンドに関する詳細な知見を得ることを目的とした。κ-(ET)_2Cu_2 (CN)_3において、研究代表者が見出した分極の集団励起の増大や、低周波の誘電異禽が報告されている~30Kの領域で、b軸偏光・55cm^<-1>の分子間振動モードが顕著な先鋭化を起こすことを見出した。周波数分解能<1cm^<-1>の高精度テラヘルツ分光により、このフォノンスペクトルの先鋭化はガウス型からローレンツ型への特徴的な形状変化を伴うものであり、~30Kでの電荷揺らぎが引き起こす、分子間振動スペクトルのモーショナルナローイングだと考えられた。そこで、モーショナルナローイングのモデルを仮定してスペクトル解析を行うことで、電荷の揺らぎが~30Kから低温に向け抑制されることを見出した。これらの結果を、日本物理学会にて発表するとともにPhys. Rev. B誌に投稿し、採録された。続いて層状鉄酸化物LuFe_2O_4においては、平成24年度に発見し、学会等で報告した偏光選択的な光誘起反強磁性―強磁性転移について、光励起・テラヘルツプローブ分光を用いてダイナミクスの解明を目指した。とくに、LuFe_2O_4の特徴である三次元的な電荷秩序が、光誘起磁気転移に際して如何に振る舞うかに注目し、実験を行った。その結果、まず定常状態において、面間方向<50cm^<-1>のエネルギー領域に巨大な緩和モードが存在し、三次元電荷秩序の形成とともにスペクトル強度が抑制されることを観測した。続いて、光励起後のスペクトル変化に注目したところ、単純な電荷秩序の融解ではなく、何らかの異なる電荷状態への変化が起きていることを見出した。これは、強相関系特有の電荷―磁気結合が現れた例だと考えられ、電子誘電体としての基礎物性のみならず、新奇な電子デバイスとしての可能性を開く結果を得ることができた。
(抄録なし)
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Physical Review B
巻: 88 ページ: 125101-1-6
10.1103/PhysRevB.88.125101