研究課題/領域番号 |
12J04439
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
劉 文 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | セルラーゼ / 糖質結合ドメイン / 干潟 |
研究概要 |
水生生物のセルラーゼにおけるセルロース結合ドメイン(CBM)の生理機能の解明:ヤマトシジミのセルラーゼ遺伝子のうち、CBMをコードする塩基配列をGFPの上流に配置した人工遺伝子CBM-GFPを構築し、水生生物セルラーゼにおけるCBMのセルロース結合能を検証した。ヨシに由来する植物残渣を干潟から採取し、オートクレープにより吸着酵素類を失活させ、それに対するCBM-GFPの結合性を調べた結果、強い結合が観察された。単なるGFPはまったく吸着を示さなかったことから、ヤマトシジミのセルラーゼ中のCBMが植物結合性を持つことが明らかとなった。純粋なセルロースを用いて同じ実験を行ったところ同様の結果が得られたことから、ヤマトシジミのセルラーゼ中のCBMがセルロース結合能を持つことが証明された。 この事実は、水生生物由来のCBMでは世界で初めて明らかになった知見であり、従来、もっぱら微生物由来セルラーゼを用いて研究されてきたCBMの効率的セルロース分解への寄与という定説とは異なり、水中生活をする生物のCBMは、「酵素タンパク質が流水によりながされることを防ぐいわば「錨(アンカー)」の役割を果たしている」(水生生物CBMアンカー説)という、生態学的にきわめて重要な概念を提唱するものである。 水生生物セルラーゼの植物結合の検証:ヤマトシジミのセルラーゼに対する抗体を作製し、その抗体を用いてヤマトシジミが生息する自然環境から採取したヨシ残渣における同酵素の結合をウエスタンブロット分析により検証した結果、ヤマトシジミセルラーゼと考えられるシグナル以外にもいくつかのシグナルが検出された。この結果は、採取した環境に生息するヤマトシジミ以外の生物に由来し、ヤマトシジミのセルラーゼと共通の抗原性を有するセルラーゼが植物残渣に結合していることを示唆していた。なお、実験室内で、人為的に植物残渣にヤマトシジミのセルラーゼを吸着させたところ、予想される分子量のシグナルが検出されたことから、天然環境で検出された多くのシグナルがヤマトシジミのセルラーゼの分解物に由来する可能性は低いものと考えられた。 実験室内で人為的に作製したセルラーゼが結合した植物残渣におけるセルラーゼの機能発現を経時的な還元糖の生成を指標に検証した結果、分解活性が確認された。この結果から、天然の水環境において水生生物から分泌されたセルラーゼが植物残渣等に結合し、生物とは独立した「水圏バイオリアクター」を形成している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CBM-GFP融合タンパク質を用いた視覚的検出により、ヤマトシジミのセルラーゼのCBMが実際にヨシなどの植物残渣に結合能を有することを示すことに世界で初めて成功し、これまで機能が不明であった水生生物由来のCBMが流水環境においてある種のアンカーとして機能していることを証明した。さらに、実際に植物残渣に吸着したヤマトシジミのセルラーゼが、吸着した状態で安定的に長期間、分解活性を発現することを明らかにし、これまで仮説にとどまっていた底泥バイオリアクター説が、単なる仮説ではなく、定説として成立する可能性を示したことも価値あることと考える。
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今後の研究の推進方策 |
以上のことから、昨年度の研究の進捗は、当初に予定していた以上のものと判断する次第である。 ヤマトシジミが分泌したセルラーゼが4種類以上ある。去年の実験で性質を解明できた1種類のセルラーゼを除いて、ほかの種類のセルラーゼに対する抗体を作製する。その抗体を用いて、これらのセルラーゼの酵素としての特性、そしてヤマトシジミのセルラーゼ分泌特性を解明することを来年の目標とする。 また、ヤマトシジミの分泌セルラーゼを誘導する環境因子を解明するため、分泌セルラーゼ誘導実験や、ヤマトシジミセルラーゼ遺伝子上流解析などの実験を行う予定である。
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