研究課題/領域番号 |
12J04441
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米田 恭子 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 好熱菌 / 一酸化炭素 / 一酸化炭素資化性菌 / 水素生成菌 |
研究概要 |
本研究ではバイオ水素生産に適した水素生成一酸化炭素資化性好熱菌を新たに環境から分離し、その生態を明らかにすることを目的とした。 熱水環境試料より新種微生物Carboxydothermus pertinax Ug1株とCalderihabitans maritimus KKC1株の分離に成功した。いずれも新規な生理学的性質を示し水素生成一酸化炭素資化性好熱菌であり、将来バイオマス由来の水素生成技術に資する可能性を有していた。新種細菌C.pertinax Ug1株は鹿児島県鰻温泉より分離に成功した。Ug1株はpH2.7という過酷な酸性温泉環境から初めて分離され、最適増殖温度65℃、増殖pHの下限が4.2と既知の種(pH5.5程度)より高い耐酸性を示した。CO酸化と共訳したクエン酸鉄還元や元素状の硫黄還元能は真正細菌において初の例である。新属新種細菌C.maritimus KKC1株を鹿児島県薩摩硫黄島近海の鬼界カルデラ海底コアサンプルより分離した。KKC1株の最適増殖条件は65℃、pH7.0-7.5で、胞子形成能を有し、亜硫酸、チオ硫酸、酸化鉄、クエン酸鉄、酸化マンガン、フマル酸など様々な電子受容体存在下でCOを消費し水素を生産した。耐塩性に優れ、14%(w/v)の塩濃度下でも増殖した。 Ug1株をCO雰囲気下(初期濃度38.6μmol/ml)でクエン酸鉄を電子受容体として85時間培養すると、24.9μmol/mlの水素が生成した。KKC1株を電子受容体非添加条件下、CO雰囲気下(初期濃度43.9μmo1/ml)で9日間培養すると、43.2μmol/mlの水素を生成した。 水素生成一酸化炭素資化性好熱菌の生態について調べるために、Carboxydothermus属細菌を対象とした調査を行った。Ug1株と近縁種C.hydrogenoformansのCODH遺伝子(cooS-II)に特異的なPCRプライマーを作成し鰻温泉環境試料中のCarboxydothermus属細菌をリアルタイムPCRによって定量した。その結果、Carbowydothermus属細菌は温泉堆積物の表層に多く、温度依存的に分布することが分かった。最もcooS-Uコピー数の多い地点では9.45x10^5に達し、Bacteriaの16SrRNA遺伝子コピー数(8.72x106)の10%にも相当し、本微生物が環境において主要な微生物となり得ることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定ではこれまで分離例の無い新たな環境から多数の水素生成一酸化炭素資化性好熱菌の分離株の取得に挑戦し、水素生成分離株をライブラリー化する予定であった。期待通り新種微生物の分離に成功したが2種に留まった。しかしながら、系統的かつ生理学的に新規な株が得られたため、おおむね順調に研究が進展しているといえる。また、本微生物の生態学的研究が皆無に等しいなか、リアルタイムPCRによる定量法を初めて確立することに成功した。本研究により本微生物が環境中に豊富に存在することを示した.
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今後の研究の推進方策 |
多様な熱水環境でリアルタイムPCRによる水素生成一酸化炭素資化性好熱菌の定量を行い、TCやTNなどの環境パラメーターとの相関性を調査する。本微生物の代謝における鍵酵素CODHの遺伝子の多様性について異なる環境ごとに明らかにすると同時に、配列のデータベース化を行う。現時点では本研究で得られた分離株は2種に留まるため、新規株の分離を並行して進め、特に新奇なCODH配列が見られた環境試料を重点的に使用し、系統学的、生理学的に新規な株の分離を試みる。分離株のゲノム解析を進め、水素生成に関わるCODH遺伝子を特定する。本遺伝子配列を環境中のCODH多様性解析へフィードバックさせて、本微生物の分布要因と多様性について生態学的研究を深化させる。
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