研究概要 |
将来,巨大な市場の展開が期待される超早期診断・創薬とライフサイエンスに欠かせない高品質な生化学分析をより低価格で高速に実現するためのバイオセンサが様々な研究グループによって提案されている.しかしターゲットの特定には,バイオセンサの原理上,適切な表面処理が必要である.これらを一般的な機関に導入するには,センシング手法をさらに簡略化する必要がある. 近年マイクロ・ナノ電気機械システムを応用した質量分析システムがCaltechグループにより提案・開発された.同グループはNEMS共振器により数100分子量オーダの質量分解能をもつ単一分子センシングおよび質量分析を実証した.もし質量分解能が数分子量程度までに高まれば,表面処理なしで多くの分子の特定が可能になる. そこで本研究は,光入力で遠隔的に駆動するNEMS共振器をフォトニックナノ構造ベースとした質量分析システムの実現を目標とする.一般に機械振動モードが小さいほど分子が吸着したときの応答量,すなわち感度が増大する.したがって微小な機械振動モードをそれに近い分布をもつ光学モードが誘起する光機械結合効果によって選択的に励起することで「数10から数分子量オーダの質量分析装置」を実現する.本研究では特に媒質中での粘性抵抗に打ち勝ち,現状以上の小型質量分析装置を実現するために,フォトニック結晶フォノンレーザの利用を検討した. 当該年度ではまずフォノンレーザの母体となるフォトニック・フォノニック結晶の材料および構造を検討し,高効率かつ高感度な動作を得るための各種パラメータを有限要素法・3次元FDTD法によって解析・最適化した.次にターゲットとなる構造を安定的に製作するための製作手法を新たに確立し,従来は30%に満たなかった歩留まりを,ほぼ100%にまで高めることに成功した.試作構造の基礎的な光学特性を評価した上で,現在,機械振動特性評価のための測定系を構築している最中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
荒川研究室での研究遂行が装置トラブル・渡航準備などにより研究は思うように進行しなかった.渡航後に関しては,当初では当該年度末まで渡航先で何ができるか,一通りの設備を把握した上で新規バイオセンサを考案し,製作をスタートすることを目標としていたが,現状で既に製作プロセスはほぼ完成の見通しがついており,測定系の構築もスタートしている.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きより堅牢かつ安定したフォノン発生・発振動作が得られる構造を解析し続けるとともに,新規測定系の構築を進め,機械特性を評価していく.当初の機械振動モードが得られているかどうかを理論との対応をとって評価する.フォノン発振条件を満たす結合共振器または発振条件を満たさない同共振器および単一共振器,光機械結合定数の異なる構造どうしの測定結果を比較することでフォノンレーザ動作を確認する.フォノンレーザ動作は構造パラメータの許容値が狭く,容易には得られないことが予想されるため,より堅牢に動作するような構造も同時に考案する.一通りの機械振動特性の評価が終了し次第,検体吸着前後での機械振動周波数シフトの観測および感度の評価をまず真空中で行う.フォノンレーザの動作が大気中でも可能か確認する.もしも動作しなかった場合は基本的な構造をもう一度見直す,またはフォノニック結晶構造を導入することで機械的Q値が向上できないか検討する.
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