研究概要 |
生化学分析において多用される質量分析装置の小型・低コスト化・高性能化は近年においても重要であり, それに関する研究分野の発展, アプローチの多様化は目覚ましい. 近年マイクロ・ナノ電気機械システムを応用した質量分析システムがCaltechグループにより提案・開発された. 同グループはNEMS共振器により数100分子量オーダの質量分解能をもつ単一分子センシングおよび質量分析を実証した. また別のグループによってカーボンナノチューブを中空加工した超小型振動子による分解能が1陽子質量相当のものが発表された. ただし分解能と歩留まりのバランスはまだ追究の余地があり, トップダウンで安定した性能の分析装置をニーズに合わせてCMOSプロセスをべ一スに作ることが産業化に発展するための要件であると考える. またMEMSにおいてはいずれも実験値で得られる分解能は理論予測されたものよりも1桁から2桁ほど悪く, 電気的なノイズがその要因であると考えられている. そこで本研究は, 光入力で遠隔的に駆動するNEMS共振器をフォトニックナノ構造ベースとした質量分析を実証することを目指す. 一般に機械振動モードが小さいほど分子が吸着したときの応答量, すなわち感度が増大する. したがって微小な機械振動モードをそれに近い分布をもつ光学モードが誘起する光機械結合効果によって選択的に励起することでMEMSよりも低ノイズな振動子を目指し, 「数10から数分子量オーダの質量分析装置」の実現が目標である. 現在それに適した構造を見出し, 製作と実験を進めている段階である. 以上に加え, 他のグループと共同でフォトニック結晶のアプローチによるオンチップ屈折率ゼロ媒体の作製・実証も並行して手がけている. グラフェンで見られるバンドの縮退による現象のアナロジーを光子に対して適用することで, 特異な周波数の光の感じる屈折率を実部虚部ともにゼロにすることができる. こちらはもう実験結果もほぼ出揃い, 論文投稿間近である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在も引き続きHarvard大学Loncarグループにてポスドクを継続しているが, 以上に示した両プロジェクトともにようやく調子が出てきたので引き続きポスドクとして直接雇ってもらう道を選択した. 目標達成のためのメソッドはほぼ出揃い, 年内にはすべてのプロジェクトを終わらせることが可能だと考えているが, それにプラスアルファで自分自身の領城を深める作業が必要であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
すでに作成されているデバイスの測定方法について別の方法が考えられるのでそれをまず試し, 思惑通りの結果がでれば真空中でターゲットとされる微小な機械振動モードが観測されるかどうか確かめる. そもそも現状のデバイスは設計値と製作値に大きなズレが生じてしまっているので, 新たなデバイスを作製する可能性が濃厚である. 屈折率ゼロ媒体に関しては測定に必要な追加装置を借り入れ, または構築して完全なデータを取り切り次第論文投稿する予定である.
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