当該年度に実施した研究によって明らかになったことは次の通りである。まず、「-(て)おく」に関しては、上代語から補助動詞的用法が観察され、その後生産性を高めながら意味拡張していく様相を明らかにした。また、前項の語彙的制約を示しつつも、後項との形態的緊密性が高まらないまま文法化したことも明らかにした。一方、「-(て)しまう」の場合は、近世語から次第に用いられ、現代語とほぼ変らない機能を備えているものの、動作の結果状態に評価性を帯びる〈遺憾〉の用法は近世後期の資料から増えはじめる「主観化」の様相が観察された。また、韓国語の場合、「-ておく」に対応する「-e twuta」に関しては、15世紀中世語からすでに補助動詞的用法が観察され、次第に意味拡張させていく様相を明らかにした。日本語の場合と同様、15世紀から18世紀に至るまで前項に語彙的制約が見られ、現代語ほど文法化が進んでいないことを明らかにした。もう一方の「-e nohta」は18世紀資料に数例観察されるのみであり、19世紀以降に補助動詞として文法化していくことが予想される。一方、「-てしまう」に対応する「-e pelita」は、15世紀中世語から補助動詞的用法が多く観察され、既出の二形式よりも早い段階で後項動詞の補助動詞化が生じていたことが明らかとなった。ただ、他の形式と同様に前項に語彙的制約が見られ、現代語ほどには文法化していなかったと考えられる。以上のように、本研究の実施により、日韓両言語の補助動詞における意味拡張の様相が明らかになったのみならず、前項と後項の形態的緊密性や語彙的制約等から補助動詞として文法化していく過程も明かにすることができた。以上のような視点からの分析により、日韓双方の補助動詞構造に留まらない「動詞+動詞」型というより広い枠組みの歴史的発達を捉えるという大局的な研究への発展可能性を見出だした。
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